海外でも日本酒の人気が高まり、外国産の“日本酒”が現れ、必要になってきた法的整備。
近年増えてきた「GI」(地理的表示)を解説。
日本酒の瓶に時々見かけるGIマーク。GIとはGeographical Indicationの略称で、日本語では「地理的表示」とされる。風土や気候の特性を活かした、その地域ならではの高品質なものに与えられるが、そのうち酒類を管轄するのが国税庁だ。国税庁酒税課の平澤哲也さん(44歳)は話す。
「ワインと蒸留酒のGIは、平成7年に世界貿易機関(WTO)の協定により定められました。地理的表示は知的所有権のひとつです。紛らわしい産地名を表示したワインなどの流通が、ヨーロッパを中心に横行したことがきっかけです」
日本でも、それに準じる形でまずワインと蒸留酒である焼酎がGIの対象となり、平成17年には清酒(※酒税法では米、米麹、水、及びアルコール等の政令で定める物品を原料とし、発酵させてこしたもの[アルコール分22度未満のもの])も加わった。
「日本産の清酒が世界で人気になるにつれて外国産の“日本酒”が現れました。このまま放置すればヨーロッパのワインなどと同じ状況になるかもしれない。その前に地理的表示で保護しようと考えたのです」(平澤さん)
秋に収穫した米を使い、寒い冬に醸しをし、四季とともに造られる日本酒は深く日本人の生活文化に根付いている。そのため国税庁は平成27年に国レベルのGIとして「日本酒」を指定。国内産の米だけを使い、国内で製造されたもののみが「日本酒」と名乗れると定めた。それ以外の外国産米を使用した場合などは「日本酒」ではなく「清酒」と定義される。
「これにより『日本酒』は高品質で信頼できるものと世界の消費者が判断できるようになった。輸出促進も期待できます」(平澤さん)
日本酒のGI認定は5地域
令和2年12月時点で、日本酒でGIを取得した地域は5か所。平成17年に最も早くGIを取得した石川県白山市の白山酒造組合事務局・小原修さん(73歳)は話す。
「当時、大手が技術力を使い、安価な原料で造ったパック酒などが市場に多く出回っていました。白山には5軒しか酒蔵がなく、どうすれば自分たちの価値を守れるかと考えました。この地には霊峰白山を源流とする手取川の伏流水がある。その美しい自然を背景に、能登杜氏は豊かなコクと品格のある酒を造り続けてきた。それをGIによりブランド化することで世界を目指そうと考えたのです。事実、取得後は輸出量も増えました」
GI認定には白山酒造組合による審査が年2回ある。第一次は書類審査であり、1等米を使うこと、またその米はどこから入手したかなども明記する。第二次審査は銘柄を隠した唎酒で、基準を満たした味わいかどうかが審査される。
一方、県単位でGI取得に動いたのが山形だ。山形県酒造組合副会長の佐藤一良さん(61歳)はこう語る。
「山形県には52蔵ありますが、どの酒蔵も一定レベルの品質を持つことを示すために、県単位で申請しました。山形は昭和62年に『山形県研醸会』という誰もが参加できる勉強会を発足、技術や情報を共有してきた。その下地があったのも大きかったといえます」
目指すのは、フランスのワイン法に匹敵する独自のGI制度だ。
「日本酒が世界で飲まれるには、ワイン法と同じような明確な基準が必要だと考えます。日本酒にはまだそういった制度はないので、100年計画でこれから構築していく。その一歩として、山形県産米100%使用といった基準をまず取り入れていきたい」(佐藤さん)
各GIは地域の水を使用することも条件として定めている。今後は日本酒のGI表示を見たら高品質の証と、そう考えたい。
取材・文/鳥海美奈子
※この記事は『サライ』本誌2021年3月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。