取材・文/池田充枝

1950年代後半、極限状態での生を見つめる<人間の土地>や<王国>などのシリーズによって、戦後日本の新しい写真表現を切り開いた奈良原一高(1931-)。

経済成長とオリンピックに日本が沸いていた1962年から65年、若き奈良原はそこから距離を置くように、ヨーロッパで自らの表現を問い直す旅に出ています。

帰国後、ふたつの写真集『ヨーロッパ・静止した時間』(1967年)、『スペイン 偉大なる午後』(1969年)が出版されましたが、『ヨーロッパ・静止した時間』が高い評価を得たのに対し、『スペイン 偉大なる午後』は今日に至るまで本格的に検証されませんでした。
しかし、幼いころからスペインへの憧れを抱いていた奈良原は、スペインへの旅を自ら「約束の旅」と名づけて、その道のりの痕跡として残された作品の数々を温めてきました。

奈良原一高《フィエスタ セビーリャまたはマラガ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-65年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《フィエスタ セビーリャまたはマラガ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-65年 (C)Ikko Narahara

このたび奈良原一高アーカイブス所蔵のニュープリントによって、奈良原一高のスペインを鮮やかによみがえらせた展覧会が開かれています。(2020年1月26日まで)

本展では、シリーズ<ヨーロッパ・静止した時間>から15点、<スペイン 偉大なる午後>から120点、計135点のモノクローム作品を展観します。

奈良原一高《偉大なる午後 コルドバ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《偉大なる午後 コルドバ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

本展の見どころを、世田谷美術館の学芸員、塚田美紀さんにうかがいました。

「日本を離れ、自身の生き方や表現を模索した奈良原が最も深く心惹かれたのがスペインです。1965年、帰国後初の個展「スペイン 偉大なる午後」では300点もの作品を発表し、1969年には写真集も出版。しかし写真界が奈良原に期待していた作品イメージとあまりにも異なっていたためか、その後長らく、このシリーズは日の目を見ませんでした。写真集出版から50年の節目に、その魅力を再発見できるのが本展です。奈良原の旅の経験を追体験できるよう、写真集とはあえて異なる構成でお見せします。

奈良原一高《フィエスタ パンプローナ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《フィエスタ パンプローナ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

 

奈良原一高《バヤ・コン・ディオス コルドバ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《バヤ・コン・ディオス コルドバ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

第1章「祭り」は、奈良原とスペインとの出会いを決定づけた、北部パンプローナのサン・フェルミン祭が中心。南部アンダルシアでの祭りも含め、作品は生きる歓びを体現する若者たちへの共感に満ちています。第2章「町から村へ」は、各地でしたたかに生き抜く老若男女の姿をクローズアップ。第3章「闘牛」は、200回も立ち会ったという闘牛の写真から、奈良原が最もこだわった「舞い」のイメージに注目します。

奈良原一高《偉大なる午後 マラガ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《偉大なる午後 マラガ》<スペイン 偉大なる午後>より 1963-64年 (C)Ikko Narahara

同時期に撮影された対照的なシリーズ<ヨーロッパ・静止した時間>からも15点を紹介します。奈良原の表現の幅広さが感じられるでしょう。さらに、写真集『スペイン 偉大なる午後』のデザインを手がけたグラフィックデザイナーの勝井三雄(1931-2019)との、刺激的なコラボレーションも特集。60年代の写真とグラフィックの熱気を堪能できるはずです」

奈良原一高《塔 セゴビア》<ヨーロッパ・静止した時間>より1963-64年 (C)Ikko Narahara

奈良原一高《塔 セゴビア》<ヨーロッパ・静止した時間>より1963-64年 (C)Ikko Narahara

写真家のスペインへの憧憬と情念がほとばしる作品が並びます。ぜひ会場へ足をお運びください。

【開催要項】
奈良原一高のスペイン――約束の旅
会期:2019年11月23日(土・祝)~2020年1月26日(日)
会場:世田谷美術館 1階展示室
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
https://www.setagayaartmuseum.or.jp
開館時間:10時から18時まで(入場は17時30分まで)
休館日:月曜日(ただし1月13日は開館)、年末年始(12月29日~1月3日)、1月14日(火)

取材・文/池田充枝

 

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