北斎、広重、吉田博、川瀬巴水という4人の卓越した版画家たちの琴線に触れた美しい風景や出会い。旅をすることが難しいこの時期、画家たちが描いた風景画で旅の追体験ができる展覧会が開かれています(6月5日まで)。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》天保元年−天保3年(1830-32)頃 東京富士美術館蔵

本展は、第1章「江戸の風景」、第2章「近代の風景」の2部で構成されています。「江戸の風景」では、葛飾北斎の《冨嶽三十六景》全46図と歌川広重の《東海道五拾三次》全55図を展示します。浮世絵風景画を代表するシリーズの競演を通して江戸時代の自然やそこに生きる人々の営みを見ることができます。

歌川広重《東海道五拾三次 丸子 名物茶屋》天保4-5年(1833-34) 東京富士美術館蔵

「近代の風景」では、明治から昭和にかけて活躍した吉田博と川瀬巴水の作品を紹介します。洋画家として出発した吉田博は、西洋の写実的な表現と日本の伝統的な木版技術を融合させた新しい木版画を生み出しました。鏑木清方に師事して日本画を学んだ川瀬巴水は、版画家に転向して日本各地の風景を詩情豊かに描きました。

吉田博《帆船 朝》(「瀬戸内海集」より)
大正15年(1926) 東京富士美術館蔵

本展の見どころを東京富士美術館の学芸員、小金丸敏夫さんにうかがいました。

「見どころのひとつとして、『昭和の広重』とも呼ばれ、海外でも高い人気を誇る川瀬巴水の珠玉の一点をご紹介します。

昭和5年、巴水は馬込町に洋館を新築して移り住みました。この一帯は江戸時代までは郊外の農村地帯でしたが、明治9年に大森駅が開通したことから、別荘地としての開発が進み、多くの文士や芸術家が移り住み、『馬込文士村』とも呼ばれるようになりました。

川瀬巴水《馬込の月》(「東京二十景」より)
昭和5年(1930) 東京富士美術館蔵

ここに描かれている三本松は、馬込のランドマークとして親しまれていた松の木で、昭和初期に失われてしまいましたが、現在も『三本松塚』や『三本松』バス停、『三本松交番』などにその名を留めています。

この作品では、当時まだその姿を留めていた三本の松が、煌々と輝く満月を背景に、美しいシルエットを形づくっています。農家の窓からもれる灯りが、夜の帳が下りた田園風景に、人の温もりを添えています。この絵は巴水の作品の中でも屈指の人気を誇り、巴水の代表作のひとつとして知られています」

心にしみる風景の数々、そこに旅した気分にさせてくれる会場に、ぜひ足をお運びください。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 甲州三嶌越》天保元年−天保3年(1830-32)頃  東京富士美術館蔵

【開催要項】
旅路の風景 ―北斎、広重、吉田博、川瀬巴水―  
会期:2022年4月2日(土)~6月5日(日)
会場:東京富士美術館 企画展示室
住所:東京都八王子市谷野町492-1
電話:042・691・4511
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館し翌日休館)
公式サイト:https://www.fujibi.or.jp
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

取材・文/池田充枝

 

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