取材・文/池田充枝

山種美術館創立者の山﨑種二(1893-1983)は、奥村土牛の才能を見出して支援し、約半世紀にわたって家族ぐるみで親しく交流しました。現在、山種美術館は135点に及ぶ土牛コレクションを誇っています。

奥村土牛(1889-1990)は、38歳で院展初入選と遅咲きながら、40歳半ばから名声を高め、80歳を超えてなお「芸術に完成はあり得ない」「死ぬまで初心を忘れず、拙くとも生きた絵を描きたい」と語り、101歳で生涯をとじるまで制作に取り組みました。

山種美術館では開館55周年記念展として奥村土牛展を開催しています(1月23日まで)。

奥村土牛《鳴門》
1959(昭和34)年 紙本・彩色
山種美術館蔵

本展の見どころを山種美術館の館長、山﨑妙子さんにうかがいました。

「代表作を多数含む当館屈指の土牛コレクションから全69点を展示し、初期から晩年にいたる土牛の足跡をご覧いただけます。

奥村土牛《雨趣》
1928(昭和3)年 絹本・彩色
山種美術館蔵

画業初期39歳のときの作品で、雨の一本一本を胡粉の線で繊細に表現した《雨趣》。絵具を何層にも塗り重ねつつも透明感があり、渦潮の音が聞こえそうな《鳴門》は、揺れる船の上で妻に帯をつかんでもらいながら写生したそうです。

奥村土牛《醍醐》
1972(昭和47)年 紙本・彩色
山種美術館蔵

京都・醍醐寺三宝院の枝垂れ桜を描いた《醍醐》。この桜は土牛が描いたことから「土牛の桜」ともよばれています。本展にあわせ、この土牛の桜の遺伝子を受け継ぐ桜の苗木を、当館玄関前に植樹しました。いつの日か土牛の《醍醐》のように花を咲かせることを楽しみにしていただきたいです。

奥村土牛《吉野》
1977(昭和52)年 紙本・彩色
山種美術館蔵

また、土牛88歳の作《吉野》は、吉野を3度訪れ完成させました。地牛は吉野の歴史にも心を動かされ、制作中は歴史画を描いているような思いであったといいます。

初心を忘れず、生涯真摯に描く対象と向き合った土牛。温かみのある作品からは、土牛の優しい人柄が感じられます。展覧会を通じ土牛芸術の魅力を味わっていただければ幸いです」

誠実なその人柄がにじみ出る作品の数々、会場でじっくりご鑑賞ください。

奥村土牛《舞妓》
1954(昭和29)年 絹本・彩色
山種美術館蔵

【開催要項】
開館55周年記念特別展 奥村土牛―山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾―
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月23日(日)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3―12-36
電話:050・5541・8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし12月27日、1月3日、1月10日は開館)、1月11日(火)、年末年始(12月29日~1月2日)
https://www.yamatane-museum.jp/
料金:HP参照
アクセス:HP参照

取材・文/池田充枝

 

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