空前の人手不足が続く中、企業が“できる人財”を採用することは困難な状況になっています。
そこで、日本マクドナルドの「ハンバーガー大学」で学長や、「ユニクロ大学」部長を務めた 有本 均氏の著書『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』から、採用した人をできる人財に育てる方法を紹介します。

文 /有本 均

サービス業の基本は人の力

企業にとって、人財育成は重要です。業種の別を問わず、また現状で、どのような育成を実践しているかどうかは別にしても、人財育成が重要であることを否定する人はいないでしょう。 では、どうして人財育成は重要なのでしょうか。まず、その「当たり前」に感じられることがなぜなのかを検討してみましょう。 私は、サービス業は人が人をもてなすピープルビジネスだと考えています。高級なフレンチであろうと低価格のファストフードだろうと、雰囲気のいい清潔な店で良質な接客を受ければ、お客様は「また来てみたい」と思うでしょう。

それだけでなく知り合いに教えたり、SNSで情報を発信したりと、PRをしてくれるかもしれません。そのような連鎖が売上を押し上げ、利益を伸ばして事業が拡大していくことになります。その起点になるのが良質な接客であり、それを提供する人の力であるわけです。人が介在しなければ成り立たないビジネスですから、ピープルビジネスということになります。

また、人の力は「対顧客」についてだけ発揮されるわけではありません。いい店の条件はいろいろありますが、肝心の商品だけでなく、店の清潔感や良いチームワークが醸し出す雰囲気も、また重要です。それを支えるのは、店舗スタッフの人間性と人間関係。つまり、ここでも、人の力が問われるのです。

そのように考えると、サービス業における長期的な成長とは、働く人の成長なくしては実現できないことがよくわかります。もちろん、サービス業に限らず、働く人の成長は、企業の成長と不可分な関係にあると思いますが、ここではサービス業に絞って、話を進めましょう。

何が外食産業の明暗を分けたのか

私が長年働いてきたフードサービス業界は、激しい競争を繰り返して今日に至ります。例えばファストフード業界に限ってみても、そうでした。1970年代から80年代にかけて、食品会社や流通企業などがファストフードに次々に新規参入し、群雄割拠の状態になりました。

バブル期に向かって、外食ブームが起こり、みんなが成長していったのです。ところがバブル経済が終焉した90年代になると、チェーンの多くが衰退していき、戦線を縮小、あるいは営業をやめる企業も続きました。残ったのは、日本マクドナルドなど、少数のフードサービス企業だけで、その後も成長していくことになります。

生き残った企業と消えた企業。その違いは何だったのか、一概には言えませんが、私は働いている人の違いが大きい、と感じています。教育の差と言ってもいいかもしれません。教育が行き届き、優れたスタッフが多い店(チェーン)は、行ってみればわかります。商品とサービスの違いもありますが、何よりQSC(クオリティ、サービス、クリンリネス)がまったく違うのです。

人不足で採用が難しくなった

ところで、人不足の傾向が明らかな現在は、人を教育し成長させるという以前に、人を確保することが喫緊の課題になっています。とにかく人を採用しなければならない。質の問題より、量を追うことが優先される状況です。

しかし、実際のところ、人の確保と人の成長は、根っこの部分が同じなのだと思います。働く人の立場からすれば、自分が成長できる場所(会社)で働きたい、と多くの人が考えます。そして、労働環境が良く、いい教育をして人が育つ場所(会社)には多くの人が集まりますし、簡単には辞めない、ということになります。ですから、 人を辞めさせずに育てる「仕組み」があるかないかは、企業の存亡に関わる重要なポイントと言えます。 「仕組み」は本書でこの後、何度も出てくる言葉ですが、多くの社員がそのことを共有し実践できることを意味します。

特定の教え上手が、その人独自の考え方とやり方で周囲の仲間を育てる、ということではありません。逆に、特別な教え上手がいなくても、考え方と手法を習得することによって、誰でも一定レベルの教育ができます。それを、私たちは目指すべきでしょ う。そのような仕組みが浸透すれば、教えること、教え合うことが会社に文化 ・ 風土として根づいていきます。そして、そのことが企業の魅力となり、人が集まり、定着して成長していくことになります、それこそがサービス業に限らず、すべての企業が目指すべき姿なのではない でしょうか。

人不足は深刻さを増し、企業が好きなように働く人を選べる時代は終わった、と言っていいでしょう。私個人の感覚で言えば、店長がアルバイトを選べる時代は1980年代前半で終わったのではないかと思います。

少子高齢化が進んだ

上図に示したのは日本の人口ピラミッドで、左が1975年、右が2020年(予測)のデータです。この間の変化は著しいものがあります。少子高齢化の傾向は一目瞭然であり、労働人口が大幅に減少していることがわかります。正社員はもちろんのこと、アルバイトであっても採用難になったのは当然と言えます。

採用基準に満たなくても採用せざるを得ない

私の会社で付き合いのある福岡の居酒屋チェーンで聞いた話ですが、ある店長は 「過去5年間、一人も不採用を出していない」と言っていました。応募してきた人、全員を採用している、と言うのです。

その店長によれば、たとえ、どんな身だしなみの応募者であっても採用するというのです。 とりあえず人を確保しないと店舗運営に支障が出るからで、「身だしなみが良くないぐらいなら、なんとかなりますよ」と店長は言っていました。ただ、そのようにして採用を決めても、 半分は出社して来ないそうです。 本来であれば、採用ラインに到達しない応募者でも採用せざるを得ない状況です。それほどまでに激しい人の奪い合いになっていますから、私たちが「人を選べる時代は終わった」と言うと、サービス業の方は、ほとんどが同意して頷いてくれます。店長であればアルバイトの採用について「その通り」と感じているし、人事の人であれば社員採用について「その通り」と頷くのです。

「人を選べる時代は終わった」。だからこそ、私たちは辞めさせずに育てることを真剣に考える必要があります。

ところで、「辞めさせないで育てる」の反対語は何だと思いますか? 「ダメな人は入れ替える」です。

いささか乱暴な表現のように感じるかもしれませんが、日本の企業はおおっぴらには言わないものの、実際にそのようにして大きくなってきた会社がたくさんあるのではないでしょうか。おそらく、ほんの数年前までは、それが通用したケースもあるはずです。

しかし、 いよいよそれもまったく通用しなくなりました。そして、このような事態が、これからしばらくの間、好転することはありません。 ですから、私たちは「どんな人でも辞めさせないで育てる」という覚悟を持たなければなりませんし、精神論ではなく、方法論をもって人の育成に取り組む必要があります。その方法論のことを、本書では「仕組み」と呼んで、次回から解説していこうと思います。


有本 均(ありもと・ひとし)
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 代表取締役会長 グローイング・アカデミー 学長。1956年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年生からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年、日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、マクドナルドの教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長に就任。2003年、株式会社ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。その後、株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役など、外食・サービス業の代表、役員を歴任する。2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。 日本マクドナルド、ユニクロ等を経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かし、世界中のサービ ス業の発展を目指す。

『全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす「仕組み」を作る』
有本 均 著 ダイヤモンド社

           

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