文 /池田輝男
ビジネスを長期的に繁栄発展させていくこと。そのために言わずもがな、お客様の満足を超えた感動を作り出すことが大切です。
しかし、あえて次の質問をさせていただきます。自社の感動のサービスを共有する上で、感動から逆算をした教育設計を社員に浸透させることができていますか。
このコラムでは、感動から逆算されたサービス教育について、弊社の50年のこだわりの育成システムをお伝えさせていただきます。
新たに人を採用した、あるいは、人材育成をこれから始める、という時に、ぜひ守ってもらいたい順番があります。人材育成には順番があるのです。
それは「技能よりも先にビジネスマナーを教える」ということです。
この場合のビジネスマナーとは、マナー講師などが教えているものではなく、会社の中でルールとされているマナーです。もちろん、その中には一般的なものもあるかもしれませんが、どちらにしても技能よりも先に教えます。
その理由は3つあります。「マウント合戦になるのを避けるため」と「あとからマナーを教えるのはとても労力がかかるから」、そして「お客様はそんなところを見ていないから」です。
1つ目の「マウント合戦になるのを避ける」ですが、即戦力を求めたり技能職で仕事をするような職場の場合、ほとんどがまず技能的な仕事を教え、早く仕事を覚えてもらいたいと考えることでしょう。特殊な仕事でなく、飲食店などでも、最初にメニューやレシピをすべて暗記させたりするようなことです。
ですがその場合、技能ありきの競争になってしまいます。「俺はこれができるからエラい」「お前よりも俺のほうが上だ」という優位性を競うだけのマウント合戦になってしまうのです。
2つ目の「あとからマナーを教えるのはとても労力がかかる」は、1つ目につながっていますが、技能ができるようになると、「できる人間だから」という理由で人は話を聞かなくなります。「自分の中で確立したやり方があるのに、わざわざマナーに戻る必要はない」と考えるのです。
ですから、まず教えるべきはマナーです。マナーを徹底的に教え、その上で技能へ移っていく。その順番でスタッフを育ててください。
すべてのビジネスを「サービス業」としてデザインする
3つ目の「お客様はそんなところを見ていない」は、感動にもつながってくるところですが、そもそも根本的な事実として、お客様は技能の部分を細かく見ることはできません。
むしろお客様が見ているのは、その人の立ち居振る舞いや所作の数々です。仮に注視していなくても、印象として残るのです。
あなたが冷蔵庫の修理を頼んだとしましょう。修理業者がやってきて、1時間ほどかけて修理が完了し、帰っていきました。冷蔵庫はもとどおりの機能を取り戻し、また使えるようになりました。
ですが、それは当たり前のことですよね? 修理をしてもらったことに感謝こそすれ、「この修理技術がすごかった」と感動したり、「また来てもらうなら同じ人(会社)がいい」とは思わないはずです。だって、そういう業者=専門家なのですから。
修理してもらった事実よりも、修理のために冷蔵庫を移動させた時に、収納場所の埃まみれの壁や床を掃除してくれていたり、冷蔵庫を拭いて汚れを取ってくれたりしたら、「そんなことまでしてくれるの?」と感動するはずです。
こういったことは、技能優先の考え方ではできないサービスです。自社のビジネスを「サービス業」としてデザインし、教育されているからこそ発想できることなのです。
このような意識も、最初にマナーを教えることで定着していきます。
池田輝男
池田ピアノ運送株式会社代表取締役。1970年、千葉県野田市生まれ。42歳で池田ピアノ運送株式会社の代表取締役に就任。 グループ4社220名のスタッフと12営業所を束ね、ピアノ・大型家電、ピアノ・大型家電・フィットネス器具、OA機器・通信設備機器・音響製品・印刷機器など大型精密機器の全国配送設置工事および大型モニターを使用したオンライン環境提供サービス、企業研修コンサルティングなどを手がけ、書籍「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツも発刊し、増刷決定。「丁寧さと迅速さ」を信条に、同社をピアノ運送業において業界ナンバー1の企業に成長させた。人生のミッションは「日本一、お客さんからありがとうを集めること」
『「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツ』