マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。今回は、なぜ、言われたことしかやらない社員が生まれてしまうのか、その要因と対処法を考察します。今回は、指示待ち社員にならない部下のマネジメントについて考察します。

はじめに

人生経験を重ね、会社でも相応の立場を経験されてきた「サライ」世代の皆様にとって、現代の若手社員たちの働きぶりに、一抹の物足りなさや歯がゆさを感じることがあるかもしれません。「どうも主体性が見られない」「指示待ちで、言われたことしかやらない」。そうした声は、多くの企業で聞かれる偽らざる実感でしょう。

しかし、彼ら彼女らは、生まれながらにして「受動的な社員」だったのでしょうか。決してそうではないはずです。現代のビジネスシーンでは、社員一人一人の主体性や自律性が、企業の成長を左右する重要な鍵となっています。にもかかわらず、「指示待ち社員」が後を絶たないのはなぜなのか。その原因は、個人の資質以上に、彼らを取り巻く環境、特に私たち先輩や上司の関わり方に深く根差しているのかもしれません。

この記事では、「言われたことしかやらない」社員が、どのような環境や背景から生まれるのかを深掘りします。そして、彼らが自ら考え、動き出す「能動的な社員」へと成長するために、人生の先輩として、また組織のリーダーとして、私たちに何ができるのかを、共に考えていきます。大切なのは、まず現状を知り、そして私たち自身ができることから始める、その姿勢ではないでしょうか。

なぜ「言われたことしかやらない」社員が生まれるのか

現代の若者たちが「指示待ち」になる背景には、大きく分けて四つの構造的な要因が潜んでいます。これらは、彼らが育ってきた時代背景や、現代の組織が抱える課題の裏返しでもあります。

1.失敗を許さない「減点主義」の風土

第一に、多くの日本企業に根強く残る「減点主義」の文化が挙げられます。新しい挑戦には失敗がつきものですが、その失敗に対して不寛容な職場ではどうなるでしょうか。一度のミスが昇進や評価に大きく響くとなれば、リスクを冒してまで新しい提案をしたり、指示以上の行動をとったりすることに、誰もが臆病になります。

特に現代は、あらゆる業務プロセスが可視化され、小さなミスも記録に残りやすい時代です。そのような環境で育った若手社員が、「余計なことをして評価を下げるくらいなら、言われたことだけを完璧にこなす方が賢明だ」という処世術を身につけるのは、ある意味で合理的な判断と言えるでしょう。挑戦による加点を狙うより、失敗による減点を避ける方が確実。その空気が、彼らから主体性を奪っていくのです。

2.良かれと思っての「マイクロマネジメント(過干渉)」

部下を思うがゆえの、上司の過剰な介入も、社員の思考停止を招く大きな要因です。心配のあまり、仕事の進め方を細かく指示し、逐一報告を求め、頻繁に修正を加える。こうした「マイクロマネジメント」は、一見すると丁寧な指導のようですが、部下の側から見れば「自分のやり方は信用されていない」「どうせ後から覆されるなら、最初から自分で考えるだけ無駄だ」という無力感を植え付けることになります。

私たち先輩世代が若かった頃は、上司から「これ、やっといて」と大雑把な指示を受け、試行錯誤しながら自分なりのやり方を見つけ出した経験も少なくないはずです。その過程で、仕事の面白さや責任感を学んでいきました。しかし、過保護とも言える現代のマネジメントは、皮肉にも、若手社員からそうした貴重な成長の機会を奪っているのかもしれません。

3.目的や全体像が見えない「部分最適」の業務

「この仕事が、会社のどの目標に、どのように繋がっているのか」。その全体像が見えないまま、断片的な作業だけを指示されていないでしょうか。自分が担当する業務の目的や意味が理解できなければ、当然、改善や工夫の余地を見出すことは困難です。

言われた作業をこなすだけの「歯車」として扱われれば、当事者意識が芽生えるはずもありません。それは、航海の目的地を知らされないまま、ただひたすら櫓を漕ぐよう命じられている船頭のようなものです。なぜ漕ぐのか、どこへ向かっているのかが分からなければ、より速く、より効率的に進むための創意工夫など生まれようがないのです。仕事の背景や目的を共有せずして、社員の主体性を求めるのは酷な話と言えるでしょう。

4.自己肯定感を育む「成功体験」の不足

最後は、本人自身の経験不足です。自分で考え、行動し、それが成功に結びついたという経験。この「小さな成功体験」の積み重ねこそが、自己肯定感を育み、「次もやってみよう」という能動的な姿勢の源泉となります。

しかし、前述したような環境下では、若手社員が自らの裁量で何かを成し遂げるチャンスは極めて限られます。結果として、彼らは主体的に動くことに自信が持てず、常に誰かの指示を仰ぐようになってしまうのです。やる気がないのではなく、「どうすれば良いか分からない」「自分で決めて失敗するのが怖い」という気持ちが、彼らを縛り付けているのです。

「言われたことしかやらない」社員の胸の内

では、当の本人たちは、自らの働き方をどのように考えているのでしょうか。単に「やる気がない」「楽をしたい」と断じてしまうのは、あまりに早計です。彼らなりの考えや、世代的な価値観も理解しておく必要があります。

ある若手社員はこう言います。「下手に提案して『余計なことをするな』と叱責されるくらいなら、黙って指示に従う方が精神的に楽です」。また、別の社員は「求められているのは、指示通りの成果物を、時間内にきっちり仕上げることだと思っています。そこに自分なりのアレンジを加えることは、むしろ期待されていないと感じます」と語ります。

ここには、承認欲求や、失敗への恐怖、そして組織内で波風を立てたくないという、彼らなりの防御的な心理が働いています。さらに、ワークライフバランスを重視する現代的な価値観も無視できません。仕事はあくまで「契約の範囲内」と捉え、時間外や指示範囲外の業務に過度にコミットすることには、抵抗を感じる層も一定数存在します。

彼らは決して無能なのではなく、むしろ与えられた環境の中で、最も合理的でリスクの少ない選択をしている、と見ることもできるのです。

人生の先輩として、今できること

では、こうした状況を踏まえ、私たち経験豊富な世代には、何ができるのでしょうか。若手の主体性を引き出し、彼らが自ら輝くための環境を整えることこそ、私たちの重要な役割です。

1.「心理的安全性」という土壌を耕す

最も重要なのは、「何を言っても、どんな挑戦をしても、この場所では大丈夫だ」と誰もが感じられる「心理的安全性」の高い環境を作ることです。失敗を個人の責任として追及するのではなく、組織の学びとして次に活かす。その姿勢を、まず私たち自身が示す必要があります。

「まずは君のやり方で試してみてくれ。何かあったら、責任は私が取るから」。経験を積んだ上司や先輩からのこの一言が、若手の心をどれだけ軽くし、挑戦への一歩を後押しすることでしょう。結果だけでなく、その試行錯誤のプロセスを認め、評価する。そうした懐の深さが、若手の主体性が芽吹くための豊かな土壌となります。

2.「任せる勇気」と「問いかける姿勢」

マイクロマネジメントから脱却し、部下を信じて「任せる勇気」を持つことも不可欠です。もちろん、丸投げとは違います。仕事の目的、期待する成果(ゴール)、そして守るべき一線(納期や予算)を明確に伝えた上で、そこに至るプロセスは本人に委ねるのです。

そして、すぐに答えを教えるのではなく、「君はどう思う?」「何か良いアイデアはないか?」と問いかけ、考えさせる時間を与えること。部下の意見に真摯に耳を傾け、良い部分は積極的に採用する。この対話のプロセスが、彼らの当事者意識を育て、「自分もチームの一員として貢献できている」という実感に繋がります。

3.小さな成功体験をデザインし、具体的に褒める

いきなり大きな裁量を与えるのが難しければ、まずは「少し頑張れば手が届く」レベルの課題から任せてみましょう。そして、見事にやり遂げた際には、間髪入れずに、具体的に褒めることが肝心です。

「ありがとう、助かった」という感謝の言葉はもちろん、「君がA案とB案を比較してくれたおかげで、クライアントへの提案がすごくスムーズに進んだよ」といったように、何がどう良かったのかを具体的にフィードバックするのです。この積み重ねが、彼らの自信を育み、次の挑戦への意欲をかき立てます。

まとめ

「言われたことしかやらない」社員は、ある日突然生まれるのではありません。日々の業務における、私たち先輩や上司との関わりの中で、少しずつ形作られていくのです。彼らを変えようとする前に、まず、彼らを取り巻く環境、そして私たち自身のあり方を見つめ直す必要があるのかもしれません。

世代間の価値観の違いを嘆くのではなく、それを理解し、受け入れた上で、彼らの持つ可能性を最大限に引き出す。それこそが、幾多の荒波を越えてきた私たち人生の先輩に課せられた、次の時代への大切な責務と言えるのではないでしょうか。時間がかかるかもしれませんが、粘り強く関わり続けることで、若手社員は必ずや、私たちの期待を超える輝きを放ってくれるはずです。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
株式会社識学:https://corp.shikigaku.jp/

 

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