文 /池田輝男
マナーはいい方がいい。これは至極当たり前のこと。しかし、当たり前だからこそ意識することもなく見落とされがちです。ひとつ質問させていただきます。あなたの会社にとってのマナーとはなんでしょうか。
おそらく明確に答えられる方は2割くらいではないかと思います。明確に答え、かつ具体的な行動に結びつけられている人は、より少ないかと思います。このコラムでは、弊社のマナー(=会社の中でルール化されていたもの)で最初に必ず抑えてもらう5つについてご紹介させていただきます。
前項(https://serai.jp/business/1043491)で、マナーは会社の中でルールとされているもの、とお伝えしましたが、中でも基本中の基本として最初の時点で必ず教えておくべきものを、5つご紹介します。
1.挨拶
2.身だしなみ
3.言葉づかい
4.全体的な所作
5.基本マインド
以上の5つです。
1.挨拶で印象の9割が決まる
まず「挨拶」ですが、お客様は第一印象が9割と言われるくらい、最初の印象が大事です。その最初の印象を決定づける要因のひとつが挨拶です。
最初に挨拶をしっかりしておけば、お客様の印象はよくなります。たとえ、仕事の中で些細なミスがあったとしても目をつむってもらえたり、「ミス」とは認識されず「何でもないこと」と思ってもらえます。
また同様に、最後の挨拶も同じくらい重要です。最初の挨拶同様、作業途中で発生した「ミスと認識されたもの」をそうとは思わせないように中和する効果があります。
もちろん、だからといって作業を雑にしてもいい、という話ではありません。
ただ、クレームのほとんどが誤解だったり、悪気のないとっさの一言や振る舞いが、態度の悪さによって拡大解釈されてクレームにまで発展してしまうケースが多いと思います。
せっかく丁寧な仕事をしているつもりでも、最初と最後の挨拶がおろそかだったばかりに印象を下げてしまうのは、とてももったいないことです。
丁寧な仕事をするための最初の基本として、まずは挨拶を強化しましょう。
2.身だしなみは「清潔感」がキーワード
いま、女性に「恋人にしたい男性に求めること」という質問をすると、99パーセントの確率で「清潔感のある人」という言葉が出てきます。それ以外にも、仕事ができるビジネスパーソン条件として外見が重要なことは当たり前ですが、そのキーワードが「清潔感」です。
では、清潔感を嚙み砕いていくと何になるか、という話ですが、私はこの大きな要因が「身だしなみ」だと思います。
常識の範疇ですが、寝ぐせのついていない整えた髪形、派手すぎない髪の色、髭を剃る(またはデザインする)、シワのないスーツやシャツを着る、いい匂いがする(汗臭い匂いがいない、タバコ臭くない)、制服をきちんと着こなしている(着崩さない)など、身だしなみには組織や会社によってさまざまな規定があると思います。
挨拶と同じく、身だしなみが整えられていることで、お客様の印象はよくなりますので、これもきちんと教育しなければいけません。
3.言葉づかいで同業他社に差をつける
一般的なビジネスマンであれば、基本的な敬語は身についていると思います。
ただ、この敬語も「ファミコン言葉=ファミレスやコンビニで使われている言葉」に代表されるようなゆがんだ形で浸透してしまったものや、本来、設定されている関係性を崩してしまった使われ方をしているケースもあります。
たとえば、上司に対して、また目上の者に対して、何かを依頼されたりした時に「了解しました」という言い方はしません。「承知しました」となります。
他にも、「ご苦労様です」という言葉は目上から目下に対してかけられる労いの言葉で、不可逆です。部下が上司に言葉をかけるなら「お疲れさまです」という言い方になります。
あるいは、ビジネスシーンでよく使われる「なるほどですね」などは、敬語のつもりなのか相づちのつもりなのか、頭に「?」が浮かんだまま商談を進めることになってしまいかねません。
このような言葉づかいを少し直すだけでも十分に業界内で差をつけることができます。
私の業界では、お客様に対して「了解しました〜」という言い方をする業者ばかりでした。そこで「かしこまりました」と言い換えるだけで差別化できたのです。
具体的に何をどうするか、ということではなく、あなたの業界で一般的になっている言葉づかいを、一歩、グレードアップさせて教育してみてください。その差を聞いているお客様は、ちゃんと存在しているのです。
4.全体的な所作で同じ行動でも印象が変わる
挨拶、身だしなみ、言葉づかいに加えて、その他の全体的な所作も重要です。所作が丁寧であることで、同じ行動をしていてもお客様に与える印象はガラリと変わります。
所作とは簡単にいうと「振る舞い」や「身のこなし」のことを指します。
挨拶でいうなら、単に頭を下げるだけではありません。むしろ、頭を下げるお辞儀は正しい挨拶とはいえないのです。
挨拶であれば、
・まず笑顔であること。口角はきちんと上がっているか
・お辞儀の確度は適切かどうか
・頭を垂れるのではなく、体を折って顔はお客様のほうを向いているか
・その際、背中は真っすぐになっているかどうか
・声の大きさはその場に合ったボリュームになっているか
といったようなことになります。
また「靴を揃えること」も所作としてはとても重要です。
靴を脱ぐようなシチュエーションの現場に限られてしまいますが、靴を脱いだ時にきちんと向きを揃えることで、お客様は「きちんとした仕事ができる人間だ」とこちらを判断してくれます。
さらに、私の会社では散らばっている(お客様の)靴があれば、それも併せて揃えるように指導しています。靴が揃っていると玄関の印象はよくなり、家の印象もよくなります。
もちろん、こちらの仕事のしやすさにもつながります。
じつは当社では「家庭に仕事の環境整備を持ち込んではいけない」(パートナーの理解不足で揉めるから)と社員に指導しているのですが、この玄関の靴の整理・整頓だけは「子どもに親ができる最高の教育」として推奨しています。
所作に関しては、挙げ出すと切りがありません。
書類を鞄から取り出す時の取り出し方や、歩く時に踵をすらないこと、商品を置く時になるべく音を立てないこと、全体の向きを揃えることなど、業種・業態によってさまざまだと思います。
ですから、ご自身の業界でそれぞれに洗い出し、見直していくことをおすすめします。
5.基本マインドは、お客様への「ヘルピング」
最後は仕事をする時のマインドの部分での教育です。
運送業であれば「運ぶこと」、物販や小売業であれば「モノを売ること」、飲食業であれば「料理を提供すること」など、業種・業態によって「業務」と呼ばれるものはさまざまだと思います。
ですが、商売のゴールデンルールは「お客様の問題・課題を解決すること」です。お客様は基本的に問題や課題を抱えていて、それを解決したくて商品やサービスを購入します。「お腹が減った」という課題を解決するために食事をするわけです。
商品・サービスを提供する側のマインドも、これに対応している必要があります。つまり、仕事をする時の基本マインドは「お客様を助けること=ヘルピング」なのです。運ぶこと、売ること、提供することなどは、あくまでもその手段にすぎません。
お客様が何に困っているか、まずはそこに耳を傾け、その困り事を自分たちの商品・サービスで解決できるなら提案し、難しいようであれば他社の商品・サービスを提供する。
結果、お客様は問題解決ができる。このマインドが基本です。
これらの5つのマナーは、基本的に教える側が教えられる側に対して伝えるべきものですが、教える側が自分を振り返る指標としても使っていただけると思います。
池田輝男
池田ピアノ運送株式会社代表取締役。1970年、千葉県野田市生まれ。42歳で池田ピアノ運送株式会社の代表取締役に就任。 グループ4社220名のスタッフと12営業所を束ね、ピアノ・大型家電、ピアノ・大型家電・フィットネス器具、OA機器・通信設備機器・音響製品・印刷機器など大型精密機器の全国配送設置工事および大型モニターを使用したオンライン環境提供サービス、企業研修コンサルティングなどを手がけ、書籍「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツも発刊し、増刷決定。「丁寧さと迅速さ」を信条に、同社をピアノ運送業において業界ナンバー1の企業に成長させた。人生のミッションは「日本一、お客さんからありがとうを集めること」
『「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツ』