静岡県伊豆の国市にある願成就院には、昨年国宝に指定されたばかりの仏像「木造阿弥陀如来坐像・不動明王及び二童子立像・毘沙門天立像」が安置される。『サライ』9月号の表紙を飾るのは毘沙門天立像だ。胎内に納められていた塔婆形名札に記された作者名より、運慶の真作であることが確定しており、30歳代前半の作とされる。
勇ましい表情と力感溢れる立ち姿は、これから戦に向かう東国武士の姿を表したのではないかと言う専門家もいる。平家の滅亡から源氏の台頭という動乱の時代を生きた運慶は、そうした武士を目の当たりにして、感じるものがあったのだろう。願成就院は、平安時代の終わりに北条氏の氏寺として創建されたと伝わり、伊豆地方屈指の大寺院であったが、室町時代に全焼し、江戸時代の再興を経て現在に至る。周辺は緑豊かな住宅街。こんなのどかな伊豆の土地に、屈指の天才仏師による傑作が置かれていることが日本文化の豊穣さを物語る。
毘沙門天立像。水晶をはめ込んだ玉眼は、見る者を射貫く迫力である(撮影/宮地 工)
特集「ニッポンの国宝」が掲載された『サライ』9月号。詳しくは、書店などで手にとってお確かめください。