沖縄の古都、首里にある『玉那覇(たまなは)味噌醤油』。琉球王朝最後の王、尚泰(しょうたい)の時代から味噌を作り続けている味噌蔵です。創業は、日本の年号では幕末の安政年間(1854〜1860年)にあたり、約160年の歴史があります。
首里は高台にありながら地下水が豊富で、王朝時代から泡盛や味噌・醤油作りが盛んな地でした。なんでも、このあたりの地層は水を通さない泥岩の上に、大小無数の孔を持つ琉球石灰岩が乗っていて、その間を地下水が流れているそうです。ちなみに、今もこんこんと湧く泉が、首里城内に残っています。
この恵まれた水と琉球王朝御用達という誇りのもと、創業以来の製法を守り抜いているのが、こちらの玉那覇味噌です。丸大豆、米、沖縄の塩、麦のみを使い、米・麦麹も蔵で仕込みます。そして、熟成させるのは杉の木樽。
蔵は、通気性のある琉球石灰岩の分厚い石垣で囲われていて、真夏でもそれほど気温が上がりません。蔵の中を、涼しい風が通り抜けます。
味噌が熟成するのに適した環境が整っているのです。
古都・首里を代表する味といえる味噌ですが、これまではお土産に買って帰るだけでした。それが、この3月に玉那覇味噌を気軽に味わえる食堂『味噌めしや まるたま』が、那覇市泉崎にできました。それも朝ごはんに始まり、ランチ、夜はお酒のツマミにと、味噌を使った多彩な味が楽しめます。
食堂といっても、店内はカフェのような造りで、誰でも入りやすい雰囲気です。近くに県庁や市役所、ホテルもあり、幅広い客層が利用しています。
店主の中西武久さんに、開店に至る経緯をお聞きしました。
「那覇の街では朝から開いている店が少なく、観光客の方が朝うろうろして店を探す、いわゆる“朝ごはん難民”が多いのです。まずは、そんな人に向けてちゃんとした朝食を用意しようと考えました。開店当初は、白米と玄米のおにぎりや味噌汁などを持ち帰り用にしていましたが、店内で召し上がる方が多くなり、朝定食を出すようになったのです。
この周辺には会社も多いので、役所関係に加えて、会社員の方もよく来てくださいます」
なるほど、那覇の飲み屋街は賑やかで、南国の夜のワクワク感は楽しいものですが、「朝の顔は?」といわれてもピンときませんね。
それに、朝ごはん大事です。
昼は、定食が中心です。沖縄の食堂に行ったことがある方ならご存知かもしれませんが、豆腐チャンプルーや沖縄そばと並ぶ定番が「味噌汁定食」です。
もちろん、“味噌めし”を謳うここ『まるたま』では、看板メニューです。豚肉、野菜、豆腐といった具沢山の味噌汁が丼で出されます。
ご飯は白米か玄米から選び、小鉢と漬物のセットです。味噌汁の丼サイズは、小も用意されています。
「小鉢の味付けにも、隠し味程度であっても味噌を使うようにしています。定食は、自家製の味噌しょうがダレを使った紅豚肩ロースしょうが焼きも人気がありますね」(中西さん)
夜の献立は、昼定食の味噌汁やしょうが焼きなどを単品で出しています。ご飯を頼めば、定食風にいただけます。
また、味噌フォンデュや味噌トマトソースのピザといったおつまみも充実しているので、中西さんはビールやワインとともに楽しんでもらいたいといいます。
「例えば、紅豚ローストポークは玉ねぎを敷いて焼き、豚肉の旨味を吸ったその玉ねぎに味噌を加えた“グレービー味噌”を添えています。
料理に味噌を使うので、ワインも日本で作られたものが合うと思い、国産中心にしました」
ローストポークはしっとりと焼き上がり、グレービー味噌の風味がその旨味を引き立てます。液体のソースだとソースの味が勝ってしまうところですが、味噌だと豚肉本来の味わいを活かしながら、より複雑な味覚に引き上げてくれるような気がします。
国産ワインは発酵食品との相性がよく、味噌とのマリアージュも楽しめます。
さて、朝・昼・夜と、時間帯によって違う味噌の味わいを紹介しました。王朝時代から現在に続く、伝統の味噌——。その魅力を知って、豊かな風味を楽しんでくださいね。
【味噌めしや まるたま】
住所/沖縄県那覇市泉崎2−4−3
電話/098-831-7656
営業時間/朝味噌めし7:30〜10:00
昼味噌めし10:00〜14:00
夜味噌めし17:00〜22:00
定休日/日曜日
http://marutama-miso.com
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。