東京・山種美術館で、江戸絵画を中心とした展覧会が開かれています。近代・現代の日本画コレクションで有名な美術館ですが、じつは江戸絵画とも縁が深いのです。
「当館創立者の山﨑種二は、丁稚奉公時代に江戸時代の絵師・酒井抱一(さかい・ほういつ)の絵を見たことをきっかけとして、後に美術品の蒐集を行うようになりました。そのため、酒井抱一「秋草鶉図」(重要美術品)をはじめ、当館の江戸絵画コレクションは、琳派の作品が充実しています」(山種美術館館長の山崎妙子さん)
琳派とは、江戸時代の絵画・工芸の流派の一つ。弟子入りをして直接の師弟関係を結ぶのではなく、それぞれが私淑し模写などによって主題や技法などを受け継ぎました。
俵屋宗達(たわらや・そうたつ)の作風を尾形光琳(おがた・こうりん)が学び、その作風を酒井抱一が学びました。
冒頭の「秋草鶉図」は酒井抱一の代表作に数えられる作品です。半月が出た薄(すすき)野原に五羽の鶉(うずら)が戯れます。女郎花(おみなえし)、露草、散らされた紅葉が一層秋の雰囲気を高めます。
抱一以外にも山種コレクションには、俵屋宗達が下絵を描き、本阿光悦(ほんあみ・こうえつ)が書をしたためた「四季草花下絵和歌短冊帖」や、伝俵屋宗達「槙楓図(まきかえでず)」など、琳派の優品が揃っています。
「『槙楓図』は、尾形光琳がほぼ同じ構図・モティーフを写した作品を制作しているということからも、琳派の型の継承がうかがえる重要な作品です」(山崎さん)
もう一点注目してほしいのが、岩佐又兵衛(いわさまたべえ)の「官女観菊図」です。御簾を上げて牛車から菊を眺める宮廷の女性が繊細に表されます。
「もとは『旧金谷屛風』と通称される六曲一双の押絵貼屏風の一図でした。明治時代末頃に分割され、現在では軸装されて複数の所蔵先のもとにあります。重要文化財に指定され、又兵衛作品の中でも貴重な作例といえます」(山崎さん)。
一見モノクロームの画面のようですが、ところどころにうっすらと金泥が引かれ、観る角度を変えることによって、上品に輝きます。また、よく見ると、女性の唇が紅色に塗られていることにも気付きます。色数が少ない作品ゆえに強い印象を残します。
琳派、やまと絵、狩野派、文人画、円山四条派等、江戸時代の主要な流派の作品が揃い、小規模ながら江戸絵画を俯瞰できる構成になっています。山種美術館の江戸絵画の全貌を紹介するのは、じつに6年ぶりのこと。貴重な機会に、ぜひ、お出かけ下さい。
【開館50周年記念特別展 江戸絵画への視線―岩佐又兵衛から江戸琳派へ―】
■会期/2016年7月2日(土)~8月21日(日)
■会場/山種美術館
※山種美術館の公式サイトはこちら
■住所/東京都渋谷区広尾3-12-36
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1200(1000)円 大高生900(800)円 中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金および前売料金
※障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は無料
■開館時間/10時から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日/月曜日
■アクセス/JR恵比寿駅西口、東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』