岩佐又兵衛の「旧金谷屏風」10図が福井で奇跡の再会！「岩佐又兵衛展」展
謎に包まれた天才絵師、岩佐又兵衛（いわさ・またべえ／1578～1650）の展覧会が、39歳から60歳までの円熟期を過ごしたゆかりの地である福井で開かれています。又兵衛に関する大規模な展覧会は、1984年一度、2004年に一度開催されたきりですので、じつに12年ぶりになります。
日本美術史上、最も悲劇的な生い立ちの絵師とされる又兵衛。父である戦国武将の荒木村重が主君・織田信長に反逆したため、又兵衛の母を含め一族郎党皆殺しになりましたが、２歳であった又兵衛は乳母の手によって命からがら脱出。やがて絵師として身を立てるようになります。
その後は、圧倒的な画力と鋭い観察眼で、どの流派にも属さない独自の画風を作り出しました。豊頬長頤（ほうきょうちょうい）と形容される、ふっくらとした頬と長い顎の顔を描くのが特徴です。
下の「花見遊楽図屏風」をご覧ください。描かれるのは満開の桜の下でのドンチャン騒ぎ。扇を手に踊る人々の中に、酔っ払いでしょうか、大男が両脇を抱きかかえられています。躍動感あふれる描写に、こちらまで楽しくなってきます。
岩佐又兵衛「花見遊楽図屏風」（部分） 4曲1隻 個人蔵
一方、牛若丸と浄瑠璃姫の悲恋の物語を描いた「浄瑠璃物語絵巻」のなんと可憐なことでしょうか。建築や調度、衣装などの装飾の細かさは圧巻です。屏風の裏面までにも模様が施されます。
しかも、この密度の絵が全長12メートルも続くのです。こうした絵巻物でも人気を博し、その画風は伝播し、又兵衛風の作品が次々と生み出されました。その後の日本美術界に与えた影響もはかり知れないのです。
岩佐又兵衛「上瑠璃物語絵巻」第4巻（部分） 重文 全12巻 静岡・ＭＯＡ美術館
なぜ、これほどの絵師なのに、まとまって実物を見る機会がないのでしょうか。
「作品が全国各地に所在し各所蔵者が大切にしているため、集めるのが簡単ではありません。また、１セット12巻以上ある絵巻は１巻あたりの長さが10メートル以上もあり、その他も含めると作品の量が膨大で全貌を紹介することが難しいのです」
そう教えてくださったのが、福井県立美術館主任学芸員の戸田浩之さん。大変貴重な機会なのです。
展示品のなかでも奇跡と言っても過言ではないのが、「旧金谷屏風」です。もともとは福井の金谷家に伝来した12図の絵が貼られた屏風でしたが、明治時代に一図ごとに掛軸に改装されてバラバラになり、複数のコレクターのもとを転々とします。
今回の展覧会で現存する10図が明治時代以来100年ぶりの再会を果たします（10図同時展示は8月26日から28日まで）。やまと絵風、漢画風、二つの画風が混在した又兵衛にしか描けない作品です。
岩佐又兵衛「伊勢物語 梓弓図」（旧金谷屏風） 1幅 文化庁蔵
「又兵衛の画力の高さや作品の素晴らしさは、実作品に接しないとわかりにくいかもしれません。福井在住時代は又兵衛の最も充実した時代であり、これだけの作品が一堂に並ぶ機会は今後なかなかないと思います。この機会にぜひご観覧頂ければと思います」（戸田さん）
福井まで足を伸ばしてでも、見に行く価値のある展覧会といえます。
【福井移住400年記念 岩佐又兵衛展―この夏、謎の天才絵師、福井に帰る―】
■会期／2016年7月22日（金）～8月28日（日）
■会場／福井県立美術館
■住所／福井県福井市文京3‐16‐1
■電話番号／0776・25・0452
■料金／一般1200円 高・大生800円 小・中生500円 ※20名以上の団体は2割引、障害者手帳等をお持ちの方とその介助者１名半額
■開館時間／9時～17時（入場は16時30分まで）
■休館日／17日（水）、22日（月）
■アクセス／JR福井駅前西口（6番のりば）より、コミュニティバスすまいる田原・文京方面線にて約10分。県立美術館前下車、徒歩0分
取材・文／藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』
