『さわ田』は今や銀座を代表する鮨屋の1軒となりましたが、10年ほど前は中野の大久保通りで店を開いていました。わずか6席と店は小さく、お手洗いも店の外というような状況でした。
私が上梓していた東京の料理店ガイドブック『東京・味のグランプリ』の「愛読者カード」で知り、ある年の1月末に編集者と出かけてゆきました。
酢めしも握りも「江戸前」の本格派で、すし種も(まぐろを除いては)一級品でした。
食後に感想を伝えると、お客さんが来なくて、週の半分は、残った魚を一人で食べてきたというのです。貯金も底をつき、ついに今日初めて築地の場外で、冷凍のまぐろを買ってしまいましたと。
私は家に帰って、すぐに5人の仲間にファックスしました(まだスマホはなかったのです)。マッキー牧元さん、小山薫堂さんらは、早速、店に駆けつけて、お店を元気づけてくださいました。わたしも、週に2回3回せっせ通って、澤田さんを元気づけ、売り上げに協力しました。
その甲斐あってか、あれよあれよといううちに人気店となり、ついに銀座に進出となりました。
久しぶりに出かけると、「あと数日、お客がゼロだったら、店を閉めるところでした」と澤田さんが述懐していました。
澤田さんが握るすしの写真は撮影禁止で撮れませんでしたが、中野時代より輝いているのは間違いありません。
【さわ田】
住所/ 東京都中央区銀座5-9-19 MCビル3F
TEL/03-3571-4711 ※完全予約制
営業時間/【火~金】12:00~14:00 18:00~20:30
【土・祝】12:00~14:00 17:00~19:30
【日】12:00~14:00
定休日/月曜
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。