文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)
一人当たりのビール消費量が世界第二位の国、アルプスの小国オーストリア。
ビールの国として世界的に知られる、隣国のチェコやドイツと比べても影の薄いオーストリアですが、一人あたりの年間消費量は100リットルを超え、国内には約170のビール醸造所があります。オーストリア産のビールの輸出量は少なく、ほぼ国内消費に回されますが、実は種類も多く、味わい深く、世界第二位のビール消費量を支えています。
今回は、そんなオーストリアの少し変わったビール事情をご紹介しつつ、ビール工場見学にご案内します。
●オーストリアのビールの特徴
ビール工場が各都市にあり、地域ごとに独自のビールが作られ、愛されているオーストリア。スーパーのビールコーナーには、何十種類ものビールが並んでいます。
メジャーなビールメーカーが10社以上もある上、それぞれが10種類以上のビールを発売していて、何を買えばいいのか迷ってしまいます。
まずは、オーストリアビールの種類の違いからご紹介しましょう。
まず、普通のビールはHelles(へレス。「明るい」という意味)。そして黒ビールがDunkles(ドゥンケルス。「暗い」という意味)と呼び、どのビールメーカーも発売しています。また、ハーフ&ハーフはGemischtes(ゲミシュテス)といいますが、ビアホールなどで注文することができます。
更に、白く濁った無濾過のZwickl(ツヴィックル)は、ビール酵母やビタミンを多く含む、豊かな味わいで人気です。また、小麦を原料にした上面発酵のヴァイツェンビール(別名ヴァイスビール、白ビール)なども人気です。
また、冬に季節限定で飲むことのできるBockbier(ボックビア)は、重厚な風味が特徴的。アルコール度が6.5パーセント以上と高いので、飲みすぎに注意が必要です。
そして、オーストリア独特な飲み方として「ラードラー」があります。これは直訳すると「自転車乗りのビール」。スポーツしながらでもビールを楽しみたいオーストリア人にとって、ビールとレモネードのような炭酸系の飲み物を半々で割った「ラードラー」は、アルコール少なめで、糖分も取れて元気が出るということで、邪道なようでいて、とてもメジャーな飲み方です。
●ビール工場の歴史
様々な種類や飲み方が楽しまれている、オーストリアのビール。
今回は、ウィーンから1時間半ほど西、オーストリアの森林地方にあるZwettler(ツヴェットラー)ビール工場を取材してみました。
ビール王国チェコの国境から近いこともあり、このあたりはオーストリア有数のビールの産地。周辺の町や村でも、有名なビール工場が立ち並んでいます。
ここには、ビールに欠かせない三つの要素がそろっています。チェコのビールづくりでも使われる、「ボヘミアの軟水」に加え、この地方で作られた良質なホップと麦芽。
この地方は、16世紀から修道院でビール醸造が行われていた、筋金入りのビール産地。1708年に作られた醸造所は、1890年から今に至るまで、5世代にわたって家族経営が続けられています。現在の従業員は約100人。国内4位のシェアを誇ります。
●工場見学
このZwettlerビール醸造所では、飲み放題の試飲付き工場見学を開催しています。2~3時間かけて、ゆっくりとビールの製造工程を巡り、何種類ものビールを味わうことのできる、人気のツアーです。
醸造所の工場見学では、まず、厳選された原料へのこだわりや、この地方の醸造技術の歴史の紹介を受けます。オーストリアの僻地に近い地方ですが、ビール作りの歴史と伝統は本物です。
見学ルートを進むと、大量のビール瓶や樽、運搬用トラックが並ぶビール倉庫を通り、ビール工場の心臓部ともいえる、Kessel(ケッセル)と呼ばれる巨大な仕込みタンクが並ぶ一室を見ることができます。
中庭に出ると、巨大な貯蔵タンクがそびえたち、最後にベルトコンベアに載せられた殺菌消毒と瓶詰行程などを見学することができます。
ビール工場としてはかなり規模が大きく、2時間ほどかけて様々な工程を歩いてみて回ることができ、解説の映像も合わせ、ビールづくりの秘訣を知ることができます。また、工場見学の間中、ビールの匂いに包まれるので、ビール好きの人にはたまらないツアーになることでしょう。
最後に飲み放題の試飲を楽しむことができるのも、この工場見学の魅力。地元産の肉やチーズが載った大きなオープンサンドをおつまみに、12種類のビールを、ゆっくり時間をかけて好きなだけテイスティングできます。
ここで飲むことができるのは、ピルスナー、黒ビール、ボックビール、無濾過のツヴィックル、ラードラーなど。ここでしか飲むことのできない種類のビールもあります。
特におすすめなのが、Saphir(サフィア)と呼ばれる風味豊かなピルスナービール。その名の通りSaphirという名の高価なホップを使用した、大人のドライな味わいが魅力。また、深い金色の輝くボックビールは、アルコール度も高く、飲みごたえのあるビールです。
試飲のできるホールでは、お土産用のビールやグラスも売られているので、ゆっくり気に入ったビールを買って帰ることもできます。
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オーストリアのビール文化と工場見学、いかがだったでしょうか。日本ではあまり知られていないからこそ、その味わい深い世界を一度のぞいて、未知のビールの世界を味わってみてください。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。