文・アンヌ遙香

札幌市内に、美味しいコーヒーがいただけるお寺があると聞き付け足を運んできました。 双子山地蔵寺。

「寺カフェはなれ」という多くの人に開かれた憩いの場となっている寺カフェ併設のお寺。全国的に寺カフェは昨今あまり珍しいものではないですが、実はまだまだ道内では数の少ない存在。なんとこちら、あの宮越屋珈琲監修の本格的なおいしいコーヒーをいただけるのです。

「地蔵寺」の境内にお邪魔すれば入り口には数多くのお地蔵様が並び、立派な本堂も。「札幌開拓延命地蔵尊」がおまつりされている由緒あるお寺ですが、その希少なお地蔵様にお目にかかるのはまた後程。

静かな境内を進んでいけば、広々とした、とってもおしゃれなカフェスペースがありました。

窓からサンサンと日光が差し込み、磨きこまれた木製テーブルがならび、壁面には空海の肖像を配したお軸が。

寺院にお邪魔するといつも不思議とリラックスしてしまうという方も結構いらっしゃると思いますが、この空間はそんなお寺ならではの癒しの空気感と、和カフェが醸し出すような穏やかな雰囲気がよい具合に混じり合い、最高の空間となっているのです。

そしてこの寺カフェはなれに「リピーターさん」が絶えない大きな理由の一つが、写経。そう、写経を目当てに、特に女性中心に多くのお客様がいらっしゃるそうなのです。

ということで私も本格的な宮越屋珈琲のカップで提供されたカフェオレとカステラをいただきながら、ゆっくりとゆっくりと写経を楽しむことに。

BGMもなく、ただひたすらに自分の呼吸や、紙と筆ペンが触れ合う音、普段味わうことのない静寂、そして時間がゆっくりとすすんでいく感覚がそこにはあります。

余計なことを考えずに目の前のことだけに没頭するこの時間。実は「余計なことを考えない」ことって難しかったりしませんか。

だいたい一時間ほど経過したでしょうか。完成した写経の文字を見ればちょっとガタガタ…あれ、心の乱れが出ている? でも言い知れぬすっきり感。これがリピーターさんの絶えない秘密なんでしょうね。癖になる。

カフェのお会計は「浄財」として本堂にお持ちする形になっているので、寺カフェを使用したお客さんは本堂および、こちらのお寺に祀られている札幌最古の石仏「札幌開拓延命地蔵尊」を必ず拝見することができるのです。

昭和5年(1930)、「札幌開拓延命地蔵尊」をご本尊として開山した地蔵寺ですが、素朴であたたかななんともいえないほほえみを浮かべた姿のお地蔵様は、現在、本堂内陣正面右脇間に寺宝として安置されています。

お地蔵様の台座石には、「明治四年九月二十四日建立 石工 滝上増太郎」と刻まれています。札幌の開拓は始まったばかりで、まだ広大な原野が広がっていた頃のこと。

明治4年(1871)の建立から、札幌の開拓が進むにつれお地蔵様は幾度か場所を変えながらも多くの人に愛されてきましたが、明治35年頃、なんとお地蔵様の首がなくなるという事件が!

お地蔵様は「首なし地蔵」とも呼ばれるようになり、姿は変われど、引き続き地域の発展を見守りつづけたのでした。人々は失われた首の代わりの石に頭巾をかぶせ、袈裟をつけてさしあげて、お顔がなくともずっと大切にされてきたということなのです。

その後お地蔵様のためにお堂も建てられた暁、なんとある日失われていたお地蔵様の首が奇跡的に見つかったのだそう。

新川の大改修の際に見つかったとも言われていますが、元の姿に無事、戻られたお地蔵様。

しかし今でも多くの檀信徒には「首なし地蔵」の呼び名で親しまれているそうです。

一瞬少しびっくりしてしまうようなお名前ですが、少しお首をかしげてにこにことされているこの独特な笑顔からは純粋なやさしさとあたたかさしか感じません。

ところどころ削れたお体には、過酷だった札幌および北海道の開拓の歴史そのものを感じることもできます。

何度も場所を変え、時にはお顔までなくなった時期を経て、今では赤い装束を身にまとい、静かな本堂でほほえみ続けるこのお姿には、自然と手をあわせたくなる力があります。こんなかわいらしくも、母性を感じる表情を浮かべた仏像はなかなかお目にかかったことがありません。

このお顔をずっと拝見していると、やさしさやおだやかさこそが実は一番の強さなのだ、ということをしみじみと実感させてくれる「札幌開拓延命地蔵尊」。

札幌市内でありながら藻岩山にも近い環境のすばらしさも魅力。

ぜひ一度訪れてみては。

アンヌ 遙香(あんぬ・はるか)
元TBSアナウンサー。現在は故郷北海道を拠点に、フリーアナウンサー、文筆家として活動。STV「どさんこweekend」メインMCなど。北海道大学大学院博士後期課程にて日本映画におけるジェンダー表象を研究中。
Instagram:@aromatherapyanne

 

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