選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
あまりにも多く、軽々しく演奏されすぎているせいか、ショパンほど誤解されている作曲家もいないかもしれない。しかし、1970年ノルウェー生まれのレイフ・オヴェ・アンスネスが、デビュー盤以来約四半世紀ぶりにショパンを取り上げた『バラード全曲&夜想曲』は、円熟の境地にある名ピアニストが満を持して録音しただけあって、これらの作品の真の偉大さに改めて気づかせてくれる稀有の名演である。
アンスネスの演奏は、エゴイズムから離れ、ショパンのバラードの中に潜んでいる音楽の豊かさを、思慮深く、丹念に、雄弁に伝えてくれる。
バラードはショパンの書いたピアノ・ソロ作品のなかで、もっとも複雑な感情と壮大なスケールに満ちているが、それをたっぷりと聴き手が味わえるように、CDとしての曲順も考え抜かれたものになっている。緊張感あるバラードとバラードの間に、息抜きのようにノクターンを1曲ずつ挟み込んでいるのだ。その流れがとても新鮮でいい。
【今日の一枚】
ショパン:バラード全曲&夜想曲
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)
発売/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
http://www.sonymusicshop.jp
2600円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年12月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。