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忠臣蔵
文・絵/牧野良幸

早いもので2018年も残りわずかとなってしまった。そこで今回は年末の定番、忠臣蔵の映画を取り上げてみたい。1958年(昭和33年)の渡辺邦男監督『忠臣蔵』である。大映映画(現角川映画)でカラーのスコープサイズ、2時間44分という堂々たる映画である。

年末に忠臣蔵と言うと、若い頃は「またか」と思ったりしたものであるが、歳を重ねるにつれ、忠臣蔵を観なくちゃ年末年始の感じがしなくなってきた。

それはサライ世代の方々も同様ではあるまいか。日本人なら琴線に触れるエピソードが満載。クライマックスはもちろん討ち入りのシーンだ。盛り上がらないわけはない。できれば炬燵でミカンを食べながら観たいものである。僕はホームシアターなので、大きなスクリーンにプロジェクターで映して鑑賞している。これも21世紀らしい忠臣蔵だ。

それにしても、忠臣蔵ほどたくさん作られた日本映画もないだろう。その時代の人気俳優を起用していくつも製作されている。赤穂浪士以外を主人公にしたスピンアウト、テレビドラマまで含めれば膨大な数になるに違いない。

そのなかで今回取り上げた『忠臣蔵』は、俳優の豪華さでダントツの一番ではないかと思う。まず大石内蔵助に長谷川一夫だ。浅野内匠頭に市川雷蔵。重鎮の志村喬や中村鴈治郎も出演している。若手では鶴田浩二や勝新太郎、川口浩、船越英二などなど。

しかし男優が豪華なのは、ある意味普通である。忠臣蔵はストーリーが分かりきったものだけに、俳優の顔ぶれで興味を惹かせるのが定番なのだ。

しかしこの『忠臣蔵』は女優陣まで豪華なのに驚いてしまうのである。赤穂浪士の仇討ちという男の世界を描いているのだから、どうしても女性の登場人物は影が薄い。脇役が多くなる。それなのにこの映画には惜しげもなく名女優が出演している。

大御所では京マチ子、山本富士子、木暮実千代、三益愛子、淡島千景。若手では若尾文子、中村玉緒など。いったいこれほどの女優が忠臣蔵のどこに登場するのか、分かる人には分かるだろうが僕など見当もつかなかった。しかし映画ではちゃんとみなさん目立つ役柄で出ていらっしゃる。

ということで名男優、名女優が惜しげもなく登場する『忠臣蔵』は、まるでNHKの紅白歌合戦みたいに観てしまうのである。

「かあさん、京マチ子と山本富士子はもう出たね。若尾文子はいつ出るかな?」

「おとうさんたら若尾文子ばかり。お色気が好きね。それより志村喬もまだ出てないわよ」

なんて会話もあるかもしれない。

まあこれは冗談であるが実際、小津、溝口、市川、そして黒澤映画の常連の俳優がここまで集まっているのも珍しい。これで三船敏郎が出ていたら究極の忠臣蔵だったのにと思う(三船敏郎は自らテレビ用ドラマを作り大石内蔵助を演じている。また他の忠臣蔵の映画にも出演している)。

でもこの『忠臣蔵』の見どころは豪華な俳優陣だけでは決してない。

これだけの名優が登場しているにも関わらず、映画はドッシリと腰の据わったものになっている。描き方は正攻法とも言えるもので奇をてらったところがなく飽きがこない。イケメン俳優を並べた忠臣蔵では、とてもこうはいかないだろう。さすが日本映画の黄金時代を支えた俳優たちである。この年末や新年によかったら観てみてください。

【今日の面白すぎる日本映画】
『忠臣蔵』
製作年:1958年
製作・配給:大映
カラー/164分
キャスト/長谷川一夫、市川雷蔵、志村喬、中村鴈治郎、滝沢修、鶴田浩二、勝新太郎、川口浩、船越英二、京マチ子、山本富士子、若尾文子、中村玉緒、ほか
スタッフ/監督:渡辺邦男 脚本:渡辺邦男、八尋不二、民門敏雄、松村正温 音楽:斎藤一郎

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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