取材・文/池田充枝
明治以降の近代美術界は、西洋の美術思想や絵画技法の導入と伝統の継承との狭間で揺れ動きました。
竹内栖鳳(1864-1942)は、元治元年(1864)に京都で生まれ、18歳で四条派の幸野棋嶺に入門しました。四条派のほか、狩野派や土佐派など様々な古画の研究に取り組み、明治33年(1900)に36歳でヨーロッパに渡り西洋美術への理解を深め、西洋技法を取り入れた写実表現によって日本画の新しい道を切り開きました。
栖鳳は終世、精力的に制作を行うとともに後進の指導にも力を注ぎ、橋本関雪や上村松園など多くの有能な画家を育成しました。
動物や風景、水の表現など、洗練された筆致で描かれた情趣あふれる作品群は、現代のわれわれをも魅了してやみません。
栖鳳晩年の作品を中心に栖鳳の魅力を堪能できる展覧会が開かれています。(2019年1月22日まで)
本展は、MOA美術館のコレクションを中心に、晩年を過ごした湯河原の町立湯河原美術館の協力を得て、伝統に立脚しつつ独自の表現を創造した竹内栖鳳の画境に迫ります。
本展の見どころを、MOA美術館の学芸員、尾西勇さんにうかがいました。
「栖鳳は当時日本ではなかなか見られなかった珍しいトラやライオンなどの動物から、雀や猫などの身近な動物まで多くの動物を描きました。栖鳳はや兎、猿、家鴨などを自宅で飼ってまで写生をしています。栖鳳の師、幸野棋嶺は「画家にとっての写生帖は武士の帯刀」であると説かれ、写生を奨励しました。栖鳳は師の教えを励行し、動物の生態をよく観察し写生することによって、「けものを描けば、その匂いまで表現できる」と言われるほどいきいきとした生気ある動物画を描きました。
とくに栖鳳は雀好きで、様々な雀を描き、「その鳴き声まであらわした」と評判でした。栖鳳は「雀を描くことは中々難しい。他の鳥と違ってチュ!と啼く」「画家はやはりそのチュ!を描くことを心掛けねばならない。絵というものは矢張り単なる写実では到底満足できないものだろうと思う」と言って、雀を描き続けました。
また栖鳳は「新鮮な魚の色は本当に美しい。見れば見るほど美しい。吾々はよくそうした新鮮な魚を市場で見て、美しい色だと思う。陸の花よりも美しい」と言って、鯛、鯖、鰹等の色彩の美をあらわしました。
洗練された筆致で描かれた情趣あふれる作品の数々をぜひご覧ください。」
やさしさと気品にあふれる栖鳳の世界にひたることのできる展覧会です。ぜひ会場でご堪能ください。
【開催要項】
竹内栖鳳展 コレクションを中心に
会期:2018年12月15日(土)~2019年1月22日(火)
会場:MOA美術館 展示室1-3
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
電話番号:0557・84・2511
http://www.moaart.or.jp
開館時間:9時30分から16時30分まで(入館は16時まで)
休館日:木曜日、2019年1月7日~11日
休館日:12月25日(火)、1月1日(火・祝)、1月7日(月)、1月15日(火)
取材・文/池田充枝