暮らしを豊かにしてくれる、本当によいうつわを作る作家たちは、どのような想いで、うつわに取り組んでいるのか。6組8人の作家たちの日常と制作をご覧いただこう。※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです。

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山の中で土と生きる、自称・焼き物屋。縄文や弥生時代のうつわが師

森岡成好さん・森岡由利子さん
(和歌山県)

森岡成好さんの作品。右上から時計回りに花入の壺(直径18×高さ8cm)、徳利(底径9×高さ15cm)、丸皿(直径24×高さ5cm)、ぐい呑み(直径9×高さ5cm、料理を盛る高坏(直径28×高さ14cm)。

森岡成好さんは昭和23年、奈良県生まれ。由利子さんは昭和30年、岩手県生まれ。住居も、薪窯も、工房もふたりで造った。原木を柱に使い、壁には火山灰の土を配した。「山に住み、暮らすと、年々自然と同化するように感じます」

和歌山県は高野山の麓、標高450mの閑寂とした山間に、森岡成好さんの窯場はある。

「幼い頃から山に親しみ、大学でも山岳部でした。組織に属さず、山の中でものを作る暮らしができないだろうか。そう考え、陶芸家の道を選びました」

20代の半ばに訪れた種子島で、南蛮焼き締めと出逢った。16世紀頃に南蛮貿易によりもたらされた、釉薬をかけず、高温で焼成するうつわだ。以来、土地に根付くうつわに惹かれ、南蛮焼き締めの源流である東南アジア、さらには沖縄、北南米、台湾、韓国へ赴き、各地で陶芸を学んできた。

森岡さんのうつわ作りは、土の採取から始まる。近くの山中へ分け入り、理想とする土を窯場に運ぶ。その土を轆轤で成形し、薪窯で10日間もの長い時間をかけ、低温で焼き締める。それには30トンもの膨大な薪が必要という。

「南蛮焼き締めは、含まれる成分の違いで異なる土の表情が生きるように作ります。薪で焼くと、窯のどこに置くかで炎や灰のかかり方が違う。そこには膨大なパターンがあり、一生かけても理解できないでしょう」(成好さん)

南蛮焼き締めに使う穴窯。奥行き約10m。窯が大きいほど、うつわの景色や表情が豊かになるという。

沖縄や種子島の土も使う。石や木の根などの不純物を取り除き、陶土にしたものを轆轤で成形する。

森岡さんの作るうつわは、自然を映したかの如く、どっしりとした存在感がある。それは森岡さんの妻・由利子さんが制作する白磁にも通じる。古い李朝白磁を彷彿とさせるうつわは乳白色で、力強さと同時に温かみを宿す。これも、薪窯で焼かれた恩恵である。

森岡由利子さんの作品。右上から時計回りにポット(直径12×高さ19cm )、丸皿(直径15×高さ6㎝、鎬しのぎの蓋付き壺(直径9×高さ9㎝、水すいびよう瓶(直径11×高さ19cm)。

土と炎により生成された、本然を捉えたふたりのうつわは飽きることがない。徳利を花入に用いたり、使い方も自在でありたい。

以前は山から木を自分で切り出していたが、体力的に難しくなり、現在は原木を購入。窯場には薪が積み上がる。

夫妻の作品を扱う『うつわノート』(埼玉県)店主・松本武明さんが語る。

「ご夫妻の若い頃は、芸術家と呼ばれた昭和の巨匠たちが、高価で、立派な“作品”を生み出していました。でも、南蛮焼き締めも李朝白磁も本来は庶民のうつわです。権威にとらわれず、本質を見つめてうつわを作り続けてきたおふたりの姿勢には心打たれます」

成好さんは言う。

「僕の師は縄文や弥生時代の土器です。暮らしのなかで営みとして作られたうつわに感銘を受けます。僕は常に“焼き物屋”でありたい」

近隣の原生林に入り、ときには酒盛りをし、酔えば寝て自然に内包される。成好さんのうつわには、自然と一体化したその暮らしと精神が宿っている。

取材・文/鳥海美奈子 撮影/高橋昌嗣

※この記事はサライ2017年5月号より転載しました。データや写真、肩書き等は当時のものです。

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