取材・文/池田充枝
小村雪岱(こむら・せったい、1887-1940)は、埼玉県川越市生まれ。16歳で日本画家、荒木寛畝(かんぽ)に弟子入りしたのち、東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科選科で下村観山に就いて基礎を学びました。
卒業後は、美術雑誌の国華社や資生堂意匠部を経て、泉鏡花や里見弴の本の装丁や「一本刀土俵入り」や「大菩薩峠」の舞台装置など、おもに出版界や演劇界で活躍していました。
そんな雪岱を一躍有名にした仕事が、昭和8年(1933)に朝日新聞に連載された邦枝完二の小説「おせん」の挿絵でした。華奢な人物像、極細の線による無駄のない描写、余白をいかした画面構成、白黒二階調の明快な配色などを特徴とする雪岱の絵画スタイルが大衆の心を魅了したのです。
雪岱の画業は多岐にわたりますが、なかでも挿絵の仕事のなかで生み出された女性表現の秀逸さで「雪岱調」と呼ばれた独自の絵画スタイルは、今も熱心な愛好家がいます。
そんな「雪岱調」の魅力を紹介する展覧会《小村雪岱「雪岱調」のできるまで》が、川越市立美術館で開かれています。(~2018年3月11日まで)
本展は、多様な雪岱の仕事のなかで、とりわけ挿絵の仕事と、そのなかで育まれた「雪岱調」と呼ばれるスタイルに注目。彼が得たであろう先行作品とも比較しながら、その誕生に至る過程を約190点の作品を通して考察します。
本展の見どころを、川越市立美術館の学芸員、折井貴恵さんにうかがいました。
「本展では雪岱の挿絵原画をできる限りたくさん展示していますが、当時は挿絵の原画は作品としての価値を見出されておらず、作家のもとに戻らないことも珍しくなかったそうです。
雪岱の人気を決定づけた昭和8年(1933)の邦枝完二「おせん」の挿絵原画も、長い間現存が確認されていませんでした。しかし近年、4図ほど発見され(現在はいずれも資生堂アートハウス所蔵)、今回はそのうちの2図を出品することができました。ちょうど雪岱調が完成した頃の貴重な作例ですので、その繊細な描写を存分にご覧いただきたいと思います。
また本展は挿絵の仕事を中心に構成されていますが、それ以前の仕事である装釘本もご覧いただけます。大正3年(1914)刊の泉鏡花『日本橋』をはじめ、保存状態の良い非常に美しい本をご覧いただける機会となっています。
さらに日本画についても、《青柳》(大正13/1924年、埼玉県立近代美術館蔵)、《おせん 傘》(昭和12/1937年、資生堂アートハウス蔵)、《赤とんぼ》(昭和12/1937年、清水三年坂美術館蔵)など、よく知られた雪岱の代表作を出品することができました。熱心な雪岱ファンにもご満足いただける内容と自負しています」
瑞々しく気品あふれる雪岱調を存分に鑑賞できる、またとない機会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【生誕130年 小村雪岱 「雪岱調」のできるまで】
会期:2018年1月20日(土)~3月11日(日)
会場:川越市立美術館 企画展示室
住所:埼玉県川越市郭町2-30-1
電話番号:049・228・8080
開館時間:9時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月12日は開館)、2月13日(火)
http://www.city.kawagoe.saitama.jp/artmuseum/
取材・文/池田充枝