取材・文/鈴木拓也
謎多き猫アートのコレクター、招き猫亭をご存知だろうか。著書の『猫まみれ』(2011年、求龍堂刊)にも、10頭の猫たちと暮らす夫婦で、猫アートの収集歴は40年を超える、というくらいしか情報がない。ところが全国の猫好き、美術好きから絶大な支持を得ているという。
そんな招き猫亭が蒐集した猫にちなむアートの展覧会『招き猫亭コレクション 猫まみれ展』が、北海道立函館美術館で開催されている(~2018年1月21日まで)。
猫づくしの生活を送るだけに、展示されている300点[約300点でなく、ぴったり300点あります]もの作品もまさに「猫、猫、猫…」のオンパレード。しかも非常にバラエティに富んでいる。その一端をご覧いただこう。
まずは19世紀後半のイギリスの挿絵画家ビアズリーの『黒猫』(1884年)。ビアズリーは、もっぱら白黒のペン画を描き、その25年の短い生涯の間に、繊細な描写力と悪魔的ともいえる世界観のスタイルを確立した。この『黒猫』は、エドガー・アラン・ポーの代表作の1つである同名の小説の挿絵として描かれたもので、殺害した主人公の妻に乗る隻眼の黒猫のおどろおどろしさが、巧みに描写されている。
招き猫亭のコレクションには、江戸時代後期に描かれた浮世絵も多数含まれている。天保の改革の一環として風俗が取り締まられ、歌舞伎役者や遊女を描いた浮世絵の出版も禁止となったが、それを逆手にとり、猫を擬人化した作品を数多く出したのが、ごぞんじ歌川国芳。連作の『流行猫の戯』(はやりねこのたわむれ)は、歌舞伎の名シーンをパロディ化したもの。役者はもちろん猫である(次の画像はそのうちの1作『快糞氣罵責段』)。
お次も歌川国芳の作品。『山海愛度図会』(さんかいめでたいずえ)という美人画シリーズの1作で、副題の「はやくきめたい」とは結婚のこと。この女性が読んでいるのは占い札で、良縁が近いかどうか気にしている様子がうかがえる。そばにいる猫は、前足を折り畳んだ香箱座りをしているが、これはお嫁入り道具の1つである香箱を暗示しているという。
このほか、本展では、マルク・シャガールやレオナール・フジタ(藤田嗣治)といった世界的な画家から新進のアーティストまで、多士済々の顔ぶれによる“猫アート”をたっぷり鑑賞できる。
学芸員の柳沢弥生さんに、本展の見所をうかがった。
「愛らしさに満ちた猫、怒り威嚇する猫、猫離れしどことなく人間のような猫、ファンタジーの世界に遊ぶ猫。実に多彩な表現による猫たちが、絵画、版画、彫刻など様々な姿で皆様をお待ちしています。なお、図録『招き猫亭コレクション 猫まみれ』『同 猫まみれ2』でも出品作品が多数お楽しみいただけますので、そちらもどうぞ」
猫好きなら必見の展覧会。これまで各地の美術館を巡回し、函館美術館での会期はまもなく終了となるが、またどこかでコレクションに再会できることを期待したい。
【展覧会情報】
『招き猫亭コレクション 猫まみれ展』
■会期:~2018年1月21日(日)
■会場:北海道立函館美術館(〒040-0001 北海道函館市五稜郭町37-6)
■電話番号:0138-56-6311
■開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
■Webサイト:http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/hbj/index.htm
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。