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文/鈴木拓也

飼い猫は、飼い主のことをどう思っているのだろうか?

猫を飼っているとこんな疑問はつきないが、意外にも猫の心理学的な探究が本格化したのは21世紀に入ってからだという。

動物ライターの加藤由子さんは、そうした研究を1冊の書籍『オスねこは左利き メスねこは右利き』にまとめ、わかりやすく紹介している。内容は、のどをゴロゴロさせている時の心理から、記憶力の良し悪しや薬の飲ませ方のコツなど多岐にわたり、猫好きなら必読の1冊。

参考までに、本書の内容を若干紹介してみよう。

猫は飼い主をなぐさめてくれるのか?

つらい出来事があって、悲しみの涙を流す飼い主。すると、愛猫が近づいてきて、頬を伝う涙をなめ始めた。

これは、猫の「泣かないでね」というなぐさめのサインなのだろうか?
残念ながら、そうではなかった。加藤さんは、次のように説明する。

そもそも、猫には悲しいときに涙を流すということがないのだから、悲しみの涙を理解できるはずがないのである。悲しみの中で涙を流した経験のある者にしか、その涙の意味は理解できない。泣いている飼い主を見て猫は「様子が変だ」と思ったかもしれないが、涙と悲しみとを関連づけることは不可能なのだ。(本書80~81pより)

では、なぜ涙をなめるのかというと、「水滴を見ると、なめずにはいられないという習性」のなせるわざに他ならない。夏の盛りにコップについた水滴を、猫がひたすらなめるのを見たことがあるはず。猫の祖先のリビアヤマネコが住んでいた半砂漠地帯という環境では、たまの雨で葉に残った水滴も貴重な水分だったことから、なめるのが習性化したのではないかと、加藤さんは説く。

「三年の恩を三日で忘れる」は本当か?

「犬は三日の恩を三年忘れず、猫は三年の恩を三日で忘れる」ということわざがあるが、犬と違って、猫は飼い主の恩をすぐ忘れる薄情者、あるいは記憶力に乏しい生き物なのか?
「恩」については、涙と同じで、恩という概念自体がないのだから、「忘れる」という言葉が意味をなさない点を加藤さんは指摘する。

猫は食糧があって居心地のいい場所にいるだけなのである。本来、単独生活者であるから、自分の都合しか考えないのが習性として正しいのだ。群れ生活者である犬が飼い主のことを考え、飼い主が喜ぶことをしたいと思うのとは気持ちの持ちようが根本的に違うのである。(本書104~105pより)

記憶力については、京都大学で行われた実験が紹介されている。実験内容は、色・形の異なる容器4個のうち2個にエサを入れ、うち容器の1個から食べさせる。そして、15分の間だけ猫を部屋から出し、色・形はそのままに容器全部をエサの入っていないものに取り替え、並び順も同じにしてから猫に入室してもらうというもの。
猫の記憶力が15分はもつものなら、前に食べた容器にはもうエサはなく、別の1個にエサが入っていたことを覚えているはず、というのが実験のねらいだ。49頭の猫にこの実験を行った結果、エサの入っていた容器を長く探索していたことから、エサを食べる体験にまつわる記憶力は、それなりにあることが判明したわけだ。

猫は自分を可愛がってくれる人がわかる?

「猫好きは猫が知る」という言葉があるように、猫は初めて見る人間でも、自分を可愛がってくれそうかどうか本能的に察知できると思われている。果たして、これは本当か?
加藤さんは、これには否定的だ。大の猫好きを自認しながら、猫に嫌われる人が少なからずいるからだ。その理由について、以下のとおり説明している。

原因はまず、「かわいい」と思うあまりにテンションが上がることにある。「あら、かわいいっ!」と視線を釘付け、なでたいがゆえにグングンと近寄っていく。多くの猫は身構えて緊張する。逃げてしまう猫もいる。異常とも言えるポジティブな態度と行動を猫は殺気として受け取るからだ。(本書200pより)

くわえて、「猫の目を凝視する」ことも問題点に挙げる。猫からしてみれば、初見の相手に目を見つめられるのは、敵意の表れ以外の何物でもないからだ。この時、猫の瞳孔は「最大限まで開いてまん丸」になっていることがある。人間からすればチャーミングだが、猫は大きな恐怖を感じている。
その対策として、加藤さんは「強い気持ちをもたない」よう指南する。興味がないふうに装い、視線を外しつつ、さりげなく、のんびりと近寄る。これで、猫と仲良くなれる可能性はぐっと高まるはず。

*  *  *

本書を味読すると、猫の心理・行動について腹落ちすることもあれば、猫には迷惑な自分の勘違いも発見したりなど、得るところは大きい。愛猫との絆を深める助けとして、読まれることをすすめたい。

【今日の愛猫との生活におすすめの1冊】
『オスねこは左利き メスねこは右利き』

https://www.natsume.co.jp/books/12787
(加藤由子著、本体1300円+税、ナツメ社)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

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