文/鈴木拓也

シニア猫に立ちはだかる3つの“壁”

日本の飼い猫の平均寿命は伸びに伸びて、いまや約15歳。腎臓病の特効薬の登場などで、これからさらに伸びるのではないかと期待されている。
個体差はあるが、おおむね10歳頃から猫はシニアの年代へと入る。ここを通り過ぎると、身体の不調が目立ってくるのも人間と同じ。

もう少し細かく見ていくと、シニア猫には3つの“壁”があるという。そう説くのは、動物クリニックAKO HOLISTIC VET CAREの山内明子院長だ。山内院長は、獣医鍼灸師の資格を持つなど、東洋医学のアプローチでペットの診療にあたる気鋭の獣医師。初の著書として『うちの猫と25年いっしょに暮らせる本』を上梓しており、その中で3つの壁について次のように解説している。

まず、「第1の壁」。12~13歳で、吐く回数が増えたり、体にしこりができるなどして通院が増えてくる年代をさす。次の「第2の壁」は、15歳頃。体力が低下して腎臓や甲状腺のトラブルに見舞われる年頃であり、それを経た18歳頃に「第3の壁」がやってくる。人間でいえば90歳近くであり、認知症や歩行困難などにかかってもおかしくない高齢世代だ。

山内院長によれば、こうした3つの壁も「東洋医学の知識とケア」で乗り越えることが可能だという。
それには、どういったケアがあるのだろうか。本書から、その幾つかを紹介したい。

猫にも「ツボ」がある

東洋医学の重要な概念に経絡(けいらく)がある。これは、気や血(けつ)などの通り道を指し、経絡上には経穴、いわゆる「ツボ」がある。
山内院長によれば、猫にも数多くのツボがあり、ここを刺激することで体調不良や病気の改善をはかれるという。

例えば、いつも元気がなく食が細い「ぐったりタイプ」の猫に効くツボは、足三里(あしさんり)、腎兪(じんゆ)、気界(きかい)だそう。
足三里は両後ろ足の膝のくぼみの下、腎兪は背中の一番下の肋骨からわずか下、気界はへそから1cm下に位置するツボ。これらを刺激すると、元気回復が期待できるという。

よく「ツボ押し」といわれるが、猫のツボは押すのではなく、「指先でソフトにくるくる回す」ように触れるのが肝心。猫が気持ちよさそうにしているか確かめながら、1日2~3分刺激すればOK。

猫でも「食養生」に配慮する

食事によって病気を防ぎ、体調改善をはかることを「食養生」と呼ぶが、猫であっても食養生は大事だという。

まず考えるのは、市販のキャットフードのタイプ別の構成比率。大雑把に分けると、キャットフードには総合栄養食と一般食があり、ドライフードとウェットフードの別もある。
山内院長がすすめるのは、総合栄養食のドライとウェットの比率は5:5、総合栄養食(ドライ)と一般食(ウェット)の比率は8:2にするというもの。

「総合栄養食のドライフード+猫缶・レトルトパックのトッピング」は手軽で合理的です。本来は「総合栄養食のウェットフードが100パーセント」が理想的ですが、費用や歯石の問題、置きエサに適さないという状況もあります。バランスとしてはドライフードとウェットフードは5割ずつが理想です。(本書103pより)

また、「東洋医学的にいえば、加工していない食材もとってほしい」とも。キャットフードのトッピングとして、少量のアジやイワシを加えることがすすめられており、体質に応じて摂らせたい畜肉・野菜なども詳しく指南されている。

少しでも季節を感じてもらう工夫を

山内院長が、本書で力説することの1つに「自然とのつながり」の重要性がある。東洋医学の考え方では、このつながりを断った環境は、「生き物が暮らすには不自然」だそうで、室内だけで暮らす今の猫の飼育環境は決して望ましいものではないと、警鐘を鳴らす。

とはいえ、外で飼うわけにもいかないので、ここは工夫をする必要がある。山内院長は、以下のような工夫を提案している。

・家の窓を開けて、外の新鮮な空気に入れ換える
・ベランダに5分でも、いっしょに出てみる
・カーテンを開け閉めして昼夜の区別をつける

要は季節と昼夜の変化を、猫に感じさせてあげるのが大事。特に季節を感じにくい環境では、本来備わっている体内のエネルギー調整能力が落ちてしまう。エアコンではそれが実現できないので、1日のうち短時間でも外の風に触れさせるよう留意したい。

*  *  *

最近は、ペットにもQOL(生活の質)が問われるようになってきているという。山内院長の東洋医学を取り入れたヘルスケアには、QOLを維持しながらシニア猫が健康寿命を延ばし、最期までおだやかに暮らすための実践的なヒントが詰まっている。10歳を超えた愛猫の不調改善の手引きとして、本書は参考になるはずだ。

【今日の愛猫の健康に良い1冊】
『うちの猫と25年いっしょに暮らせる本』

https://bit.ly/3hiyl9K
(山内明子著、本体1500円+税、さくら舎)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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