文・取材/山内貴範
鳥海山の麓に広がる秋田県羽後町(うごまち)。数百年の歴史を持つという「西馬音内盆踊り」などの伝統芸能や、県内でもっとも多く残る約80棟もの茅葺き民家群などで知られる町だ。
この羽後町の2016年度の「ふるさと納税額」が、前年度の約7倍に相当する約8860万円に急上昇したと話題になった。原動力の一つになったのが、同町に本社を置く協和精工が製造した「ミナセ」というブランドの腕時計だ。
ふるさと納税で100万円を寄付すれば、羽後町の紋章入りの箱に西馬音内盆踊りの刺繍入り風呂敷で包まれた限定品のミナセの腕時計を返礼品として1本受け取れるということで、昨年度だけで十数人から希望があったという。
ミナセの時計工房は、羽後町の隣町・湯沢市の皆瀬(みなせ)にあり、ブランド名はその地名に由来する。
ブランドが立ち上がったのは平成17年と比較的新しいが、メーカーの協和精工には金型加工に使われるドリルや、腕時計のOEM製造などを行ってきた実績があった。
ミナセ時計の特徴である、どのブランドの腕時計にも似ていない独特のルックスを生み出しているのは、ケースの歪みをなくして美しく磨き上げる“ザラツ研磨”の技術や、日本の伝統工芸である寄木細工にヒントを得た“MORE構造”だ。ケースに立体感があるので、腕に付けたときに圧倒的な存在感がある。
こうしたこだわりと職人の手仕事が支持され、ミナセの取り扱い店も増加しつつある。日本最大級の腕時計の取扱量を誇る東京・日本橋の「タカシマヤウォッチメゾン東京・日本橋」でも売れ筋の一つだ。
現職の羽後町長、安藤豊さんも、ミナセの腕時計を愛用している一人である。
「町長就任の記念に買い求めたんですよ。キラキラ輝いて存在感があるためか、人の目を引きやすいようで、『どこの時計ですか?』と聞かれることがよくあります。わが町の会社が作っている腕時計ということで、話題も広がりますね」(安藤町長)
ミナセの時計は、動力機構であるムーブメントこそスイス製のものを加工して使用しているが、すべてのパーツを自社で生産できる“マニュファクチュール”の時計メーカーとして、進化しようとしている最中だ。自社製造のムーブメントも開発中という。
秋田が世界に誇る機械式腕時計を手にし、その職人技の粋を堪能していただきたい。
【ミナセ製品の問い合わせ】
電話:04-7142-7381(協和精工)
http://www.minase-watches.com/
【タカシマヤウォッチメゾン東京・日本橋】
電話:03-3211-4111(代表)
http://watch.takashimaya.co.jp/?site=tokyo
※タカシマヤウォッチメゾン東京・日本橋では、6月24日・25日の各14時~、16時~のスケジュールで、時計修理技能士によるミナセのケースとブレスレットの分解・組み立ての実演を実施する予定です。
文・写真/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。