文/鈴木拓也
1951年にラジオ体操第一の放送が始まって以来、70年近くにわたり日本人に親しまれてきたラジオ体操。とっつきやすさもあって、シニア世代にも人気の運動になっている。
ところが「高齢者には、ラジオ体操は向いていない」「逆効果になることさえあり得る」と警鐘を鳴らすのが、戸田リウマチ科クリニックの戸田佳孝院長。著書『ラジオ体操は65歳以上には向かない』(太田出版)では、高齢者のラジオ体操には多少のメリットはあるが、デメリットも多いと綴っている。
いったいどういうことなのだろうか?
同書で戸田院長がまず指摘するのは、「ラジオ体操が生まれた時代と現代では、平均寿命も体格も異なる」という点。ラジオ体操が考案されたのは、男性の平均寿命が60歳程度に過ぎなかった時代。当時の考案者は、よもやそれよりも上の年代の人たちが、ラジオ体操をすることになるとは想像していなかったはず。このギャップが、様々なトラブルを生む土壌になっているとする。
そして、多くのラジオ体操実践者は、効果がないか、かえって身体を痛めやすい、間違ったやり方をしているとも指摘する。例えば「両脚で跳ぶ運動」では、とくに高齢者に、ジャンプはせず、ひざを軽く曲げて跳んだ真似だけする人が多い(着地時に前に倒れる恐怖心のため)。しかし、この動作の場合、靭帯が痛みやすく、ひざにはよくないという。もっとも、仮にきちんとしたラジオ体操をしても、高齢者にとっては、ひざや腰を痛めるリスクが高いものが、いくつもあるという。
これだけでなく、ラジオ体操は、肥満軽減(減量)、肩こり、呼吸機能の改善には効果はなく、高齢者に重要な足の筋肉を鍛えるものでもないなど、手間に見合う運動であるか疑問だとしている。
その一方で、一定のメリットもあるという。一番大きいのは血圧と血行の改善効果で、ついで精神面の健康維持にもよいという。そのため戸田院長は、必ずしもラジオ体操そのものを全否定はしていない。
ラジオ体操を続けたい高齢者に対し、戸田院長が勧めるのは、ひざの筋力を強化し、骨盤周辺の柔軟性を高めるエクササイズの実践だ。具体的には3種類あって、いずれもカンタンで長く続けやすいものばかりである(詳細については本書を参照いただくとしよう)。
同書で戸田院長は、ラジオ体操の習慣とともに、これらのエクササイズを行うことで、最後まで自分の脚で歩ける生活が実現しやすくなると力説している。
とくにラジオ体操が日常生活の張り合いとなっている方は、安心のためにも本書を読まれてはいかがだろう。
【今日の一冊】
『ラジオ体操は65歳以上には向かない』
(戸田佳孝著、太田出版)
http://www.ohtabooks.com/publish/2016/02/17000005.html
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。