尾形光琳、岩佐又兵衛の作品など、日本美術の重要な作品を所蔵している熱海の『MOA美術館』が、このほど11ヶ月の休館期間を経て、内装が大幅にリニューアルされました。
設計を手掛けたのは、現代美術作家・杉本博司さんと、建築家・榊田倫之さんによる「新素材研究所」です。
杉本さんがもっともこだわったことの一つが展示室の光です。
「足利義政が作った銀閣寺東求堂の四畳半の部屋に座ったとき、義政の体験した光は、このような障子越しの光ではないかと考えました。MOA美術館が所蔵する東山御物(足利将軍家の収集品)などは、こうした状況で見るのが一番素晴らしいはずです」(杉本さん)
近代以前の日本の美術品は、電灯ではなく自然光や蝋燭の光で見られることを前提に制作されています。作品が作られた当初の状況を再現するには、自然光を取り入れればよいのですが、美術品は紫外線に弱く、展示室に窓をあけるわけにはいきません。
そこで利用したのが、色温度や明るさをコントロールできる、最新のLED照明です。近代以前の状況を作り出すために、現代の最新技術が必要なのです。
免震台にもなっている展示ケースの床の台には、樹齢千年を越える屋久杉の柾目の板や、畳が使用されています。近代以前、掛け軸は基本的に床の間に飾るためのもので、屏風は室内の仕切りでした。畳の上に作品を置くことで、本来の使用目的に合った姿が想像しやすくなります。
そして、驚くのは展示ケースのガラスケースの透明さです。手をのばして確認しなければ、そこにガラスがあることがわからないほど透過度が高く、作品がそこにあるという実在感まで伝わってきます。ケースに対向する壁面は、黒漆喰で塗り込められ、余計なものが一切反射せず、作品を見ることに集中できます。
新調されたメインエントランスの扉は、蒔絵の人間国宝、室瀬和美さんによるもの。高さ4mもある巨大なステンレスに、漆が塗られました。その着想は、東大寺に伝わった根来塗のお盆から得たそうです。
根来塗は、表面の朱漆がこすれて下塗りの黒漆が透けてくる、その味わいを楽しむ漆器。この扉がどのように経年変化するのか楽しみです。
屋久杉、漆喰、畳、漆など、使われているのは日本の伝統的な素材ばかりですが、昔ながらの素材を使うことが、かえって今の時代には、新しいことであることを痛感します。
開催中の「リニューアル記念 名品展」では、同館が所蔵する、尾形光琳『紅白梅図屏風』、野々村仁清『色絵藤花文茶壺』、『手鑑 「翰墨城」』の国宝すべてが展示されています。この機会にぜひ足をお運び下さい。
【リニューアル記念 名品展 + 杉本博司「海景 – ATAMI」】
■会期/2017年2月5日(日)~3月14日(火)
■会場/MOA美術館
■住所/静岡県熱海市桃山町26-2
■電話番号/0557・84・2511(代表電話)
■料金/一般1600(1300)円 高大生1000(700)円・要学生証 中学生以下無料 65才以上1400円・要身分証明
* ( )内は10名以上の団体料金
* 障がい者手帳をお持ちの方と付き添い者(1名のみ)半額
■開館時間/9時30分から16時30分まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/会期中無休
■アクセス/JR熱海駅より、MOA美術館行きバス(バスターミナル8番乗り場)で終点「MOA美術館」下車すぐ/タクシー JR熱海駅タクシー乗り場より約5分
■美術館公式サイト/http://www.moaart.or.jp/
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』
※内観写真クレジット/
Sugimoto+Tomoyuki Sakakida/NMRL
※サライプレミアム倶楽部会員の4名様にMOA美術館の特別入館券を差し上げました。