今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。
【今日のことば】
「登ってみもしないで選定するのは、入社試験に履歴書だけで採否を決定するようなもので、私の好まないところであった」
--深田久彌
近年の登山ブームの中で、読み継がれる深田久彌の名著『日本百名山』。
北は北海道の利尻岳から南は屋久島の宮ノ浦岳まで、日本各地の名峰を選び、それぞれの特徴と魅力について綴るこの著作のため、深田は候補となる数百の山の頂上を極めた。
掲出のことばは、同書の中でそのことを語ったもの。
便利な世の中で、今はたいていの事物についての情報は、その場に座ったまま、スマホひとつで入手することができる。けれど、それで自分がもの知りになったり、本当にものごとの実態が掴めたような気になるのは危険なことだ。
深田久彌は明治36年(1903)生まれ。子供の頃から無類の山好きで、生涯、途切れることなく山を登りつづけた。
最後の登山は、昭和46年(1971)、68歳の春。山梨県北巨摩郡明野村の茅ヶ岳の山頂付近を歩行中、突然前のめりに倒れ昏睡状態に陥り、そのまま意識を回復することなく天に昇った。
山男の中の山男だった。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。