今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。
【今日のことば】
「死ぬときは、ぽっくり死にたいから、私はうんと好きなものを食べて、うんと肥って、それで心臓を圧迫しておくのよ」
--池波鈴
池波鈴は、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』などの作品で知られる作家・池波正太郎の母親。昭和61年(1986)、84歳で天寿を全うしたというから、生まれは夏目漱石がロンドン留学中の明治35年(1902)か。職人の娘でもあり、気っ風のいい肝の据わった明治気質の女性だったのだろう。晩年、掲出のようなことばを口にしていたと、作家本人が随筆『食卓の情景』の中に綴っている。
近年は健康ブームで、あれをしたら体にいい、これをしたら長寿につながるといった情報がやたらとあふれているが、寝たきりで長生きしてもなんにもならない。長野県佐久市には、「ぴんころ地蔵」というものがある。近年つくられた新しいお地蔵さんだが、その名前から参拝者がたえないという。ぴんぴん元気で長生きして、コロリと往生する。誰もが望む人生のしまい方なのだろう。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。