ふと目にした海外ドラマのセリフ、英語のニュースの一文。何気ない動詞が、思いがけないニュアンスで使われていて、思わず「へえ」とうなってしまう。そんな経験、ありませんか?
今回は、日常の中で出会う簡単な単語の、ちょっと意外な英語の意味を取り上げます。
さて、今回ご紹介するのは“It rings a bell.” です。

目次
“It rings a bell.”の意味は?
記憶を呼び起こす英語表現
最後に
“It rings a bell.”の意味は?
“It rings a bell.” を直訳すると、
“ring” は(鳴る、鳴らす)、 “bell ” は(鐘、ベル)ですが……、そこから転じて
正解は……
「聞き覚えがある」「心当たりがある」「ピンとくる」
という意味になります。
『プログレッシブ和英中辞典』(小学館)には、“ring a bell” について「((略式))(…にとって)思い当たる節がある(がはっきりしない),聞き覚えがある」と書かれています。
例えば、
1. “Her face rings a bell, but I can’t remember where I saw her.”
(女の顔には見覚えがあるけど、どこで会ったか思い出せないです。)
2. “It doesn’t ring a bell.”
(心当たりがないな。/ピンとこないな。)
などと使うことができます。
この表現は、比喩的に「何かを思い出す」や「記憶がよみがえる」といった意味で使われています。

記憶を呼び起こす英語表現
「思い出す」や「聞いたことがある」という感覚を表す英語表現は、多くあります。ここでは、「ring a bell」以外の、よく使われる3つの言い回しをご紹介します。
1. “come back to(me)”
意味:時間が経つにつれて、少しずつ記憶がよみがえる。
1. “Slowly, the memory comes back to me.”
(少しずつ、その記憶が戻ってきた。)
2. “It all came back to me when I saw the photo.
(その写真を見たとき、一気に思い出がよみがえった。)
2. “vaguely remember”
意味:うっすらと、はっきりしないけれど何となく覚えている。
1. “I vaguely remember meeting her at the party.”
(彼女にパーティーで会ったのを、なんとなく覚えてる。)
2. “I vaguely remember that movie, but not the ending.”
(その映画はうっすら覚えてるけど、結末は思い出せないな。)

3. “remind A of B”
意味:AにBを思い出させる
誰かや何かが、過去の記憶や感情をよみがえらせる。
1. “The Japanese sweets remind me of my grandmother.”
(この和菓子はおばあちゃんを思い出させる。)
2. “This picture reminds me of my time in England.”
(この写真を見ると、イギリスで過ごした日々を思い出します。)
最後に
パレスチナの詩人、マフムード・ダルウィーシュ(Mahmoud Darwish, 1941–2008)の作品『On This Earth(この地に)』は、彼の詩の中でもとりわけ愛されている一編です。
彼は、パレスチナの人々の抵抗と祖国への愛、アイデンティティの模索、そして絶望の中にも希望と美を言葉に紡ぎました。1948年のイスラエル建国とともに起きた「ナクバ(大災厄)」(パレスチナ人の大量追放)のなかで家を失い、亡命と帰還を繰り返したダルウィーシュの言葉は、個人の記憶と歴史を重ねながら、人間の尊厳を歌っています。
この詩『On This Earth』も、アラビア語原詩からいくつかの英訳が存在しています。そのひとつを以下にご紹介します。
On This Earth
by Mahmoud Darwish
We have on this earth what makes life worth living
the aroma of bread at dawn
a woman’s opinion of men
the works of Aeschylus
the beginnings of love
grass on a stone
mothers who live on a flute’s sigh
and the invaders’ fear of memories
We have on this earth what makes life worth living
…この地に
マフムード・ダルウィーシュ
生きるに値するものが
(出典:Unfortunately, It Was Paradise: Selected Poems, Mahmoud Darwish著, 2003年刊)
この地にはある
夜明けのパンの香り
女が語る男たちへの思い
アイスキュロスの作品
愛のはじまり
石の上の草
母たちの嘆きの笛の音
そして侵略者が恐れる記憶
生きるに値するものが
この地にはある
…
この詩には、恋のときめきや焼きたてのパンの香り、芽吹く草、季節の移ろいといった、ささやかな日常の情景が連なっています。けれど、その奥には、パレスチナが抱える深い痛みと抑圧への抵抗、そして子を思う母の嘆きが息づいています。
詩の後半では「貴婦人」が登場します。「彼女」は恋人やひとりの女性ではなく、擬人化されたパレスチナです。
美しく尊い記憶は、誰にも奪えないのだと、改めて思います。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
