みなさんが英語を学ぼうと思ったきっかけは何だったでしょうか? 私の場合、英詩の意味を知りたいと思ったのが始まりでした。今では映画の字幕や歌詞を多言語で簡単にチェックでき、スマートに語学を学べる時代。身近な興味を入り口に、楽しみながら英語を学びませんか?

さて、今回ご紹介するのは “beat around the bush”です。

目次
“beat around the bush”の意味は?
「本音」と「たて前」の間に
最後に

“beat around the bush”の意味は?

“beat around the bush” を直訳すると、

“beat” は(打つ) “bush” は(低木の茂み、やぶ)、 ですが……、そこから転じて

正解は……
「遠回しに言う」「はっきり言わない」という意味になります。

もともとは、やぶの周りをたたいて獲物を追い出す狩りの手法に由来した表現です。さぐりを入れたり、回りくどい言い方をするような場面で使います。

『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)には、「((話)) ((しばしば否定命令文)) 要点に触れるのを避ける,ずばりと言わない,遠回しに言う;探りを入れる」と書かれています。

このフレーズは、否定の “not” や、”stop” という動詞とともに使われ、物事を遠回しに言う相手に対し、はっきり言って欲しいと伝える場面などにもよく使われます。

例えば、

She was beating around the bush for days before finally admitting she was going out with him.
(彼女は長い間はっきり言わなかったけど、最終的には彼と付き合ってるって認めたよ。)

会話文

Boss: Stop beating around the bush and tell me if you finished the report!
(遠回しに言うのをやめて、レポートが終わったかどうかを言いなさい)

Employee: Well, I was considering a few edits, but—.
(あの…… あと少しだけ手直ししたいと思ってるんですが……)

Boss: So, that means you haven’t finished it, right?
(じゃあ、できてないということね。)

などと使うことができます。

「本音」と「たて前」の間に

欧米から来た友人たちと話していると、日本人の “A beat around the bush way of communication”(はっきりと言わないコミュニケーション)に戸惑うことが多いという話をよく聞きます。相手の意図をつかみかねることが、仕事でもプライベートの場面でも少なくないようです。

空気を読み、たて前を重んじる文化は、人間関係を穏やかにし、社会の調和を育む側面があります。しかしその一方で、本心を隠し、自らの意見に責任を持たぬまま、大勢に流される安易さに身を委ねてしまうこともあるかもしれません。かと言って、本音ばかりを押し通せば衝突を生み、結果的に関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。そのため、日本人は時に遠回しな表現を選び、言葉の奥に気持ちをにじませてきたように思います。

「遠回しに言う」文化は、恋愛においても見られます。たとえば、日本では関係が自然と立ち消えていくことを「自然消滅」と呼んだりしますが、近年、英語でもこれに近い意味を持つ“ghosting”(突然姿を消し、連絡を絶つこと)という言葉が広まっています。“ghosting”は、幽霊のように気配を消してしまう行為として欧米では否定的に捉えられますが、日本の恋愛における「自然消滅」はそれほど珍しいことではありません。ここにもまた、明確に意思を伝えない文化の一側面が映し出されているように思えます。

「本音とたて前」は、特に海外の人々に、ネガティブなものとして捉えられてきました。しかし、本来は誠意をもって円滑な人間関係を築くための知恵だったのではないでしょうか。大切なのは、ただ遠回しに言うことではなく、相手を思いやりながらも、自らの意志をしっかりと伝えられる関係を育むこと。そのバランスのなかに、よりよいコミュニケーションの形があるのかもしれません。

最後に

日本のなかでも、特に京都は「遠回しに言う文化」が色濃く残る土地として知られています。生粋の京都人の友人がこんな話をしてくれたことがありました。たとえば、ご近所の方から「おたくのお嬢さん、ピアノが上手になりましたなあ」と声をかけられます。

一見、ほめられているように感じるその言葉の裏には、「ピアノの音が響いていますよ、もう少し静かにしてください」という苦情がひそんでいました。初めて聞いたときは少し怖さを感じましたが、言葉の上では柔らく、けれどしっかりと自分の意志を相手に伝える、この「いけず文化」は、どこか趣深くもあります。

せっかく、 “beat around the bush”(遠回しに言う)のなら、京都人のように、相手が分かろうが分かるまいが、意志を持った「はっきり言わない」おもしろさを楽しんでみるのはいかがでしょう。

次回もお楽しみに!

●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。  京都祇園にある建仁寺塔頭両足院をベースに、ひとつのテーマについて英語で語りあう『うごく哲学』を対面とオンラインで定期開催。その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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