文/印南敦史

なにかと忙しい現代社会においては、ともすれば精神的にも肉体的にも追い詰められてしまいがちだ。事実、「やることが多すぎて落ち着けない」「いつもなにかに追われている気がする」というような思いを抱えている方も少なくないだろう。

もちろん、デジタル技術が普及したおかげで、時間の短縮は容易になった。しかしそれでも、人間の能力には限界がある。生産性や効率を重視しすぎると、人間らしい生活から逸脱してしまうことにもなりかねないわけである。

事実、忙しい日常のなかで、自律神経のバランスを乱し、イライラ、頭痛、不眠、倦怠感などの不調に悩まされる人が増加しているようだ。

だからこそ、医師である『0.75倍速健康法』(工藤孝文 著、フォレスト2545新書)の著者は「0.75倍行動」を勧めているのである。一見無駄な行為を、じっくり時間をかけておこなおうという提案である。

SNSの動画や録画したテレビ番組を1.5倍速や2倍速で視聴する人が多くなりましたが、その逆、スローで再生するような感覚です。その感覚を日常生活のいろいろな場面に取り入れてみるのです。(本書「はじめに」より)

たしかに時間がないときなどには、つい倍速視聴をしたくなる。だが最近の研究によれば、通常再生時と倍速再生時を比較すると、倍速再生時のほうが交感神経の働きが高まることが明らかになっているのだという。一度に入ってくる情報量が多くなり、脳がストレスを感じるからだ。

そこで著者は0.75倍速での動画視聴を勧めているのだが、それは映画やドラマをスロー再生しろということではない。ストーリー性のある作品の場合は、テンポがずれて楽しめなくなってしまうだろう。

では、なにを観ればいいのだろうか?

私がとくに0.75倍速での視聴をおすすめしたいのは、ストレッチなどの身体を動かす動画です。
YouTubeなどにアップされているストレッチ動画を0.75倍速にすると、筋肉の細かな動きを確認できます。今までは機械的に行なっていた動作も、「このストレッチをする際は、もっと脇腹を伸ばすことに注意を払ったほうがよいのかもしれない」といった新たな発見に繋がります。
さらに、0.75倍速で身体を動かすと、呼吸もスローペースになるため、自然と副交感神経が優位になり、気持ちを落ち着かせることもできます。(本書90ページより)

もちろん動画視聴だけにあてはまることではなく、音楽の聴き方にも応用できる。スローテンポの音楽を聴きながら散歩をすることも、日常生活に取り入れやすい0.75倍速行動のひとつだからだ。

音楽のテンポは心身に影響を与えることがわかっており、速いテンポの曲を聴くと交感神経が優位に、遅いテンポの曲を聴くと副交感神経が優位な状態になる傾向があるというのだ。

運動会の定番曲である『天国と地獄』という曲を聴くと、なんだかテキパキと動かなくてはいけないような気持ちになりませんか? 反対に、落ち着いたクラシック音楽を聴くと、ゆったりとした気分になる人が多いでしょう。(本書91ページより)

そこで散歩の際には、できるだけゆったりとしたペースの曲を聴くのがいいようだ。そうすれば気持ちに余裕ができ、歩くペースも遅くなるため、自律神経のバランスを整えやすくなるからである。

また、0.75倍速行動は日常的に行なう食事の支度でも取り入れることができるという。

たとえば、りんごや梨などの丸い果物を食べる際は、皮がちぎれないようにいつもより慎重に包丁を動かしてみましょう。(中略)

皮むきに限らず、食事の準備をすることは、心の余裕を生むことにも繋がります。たとえば、時間がないからと焦って食事の支度をすると、食べている間もなんとなく落ち着かない気持ちになりませんか? そんな状態で食事をすると、しっかり味わうことができません。すると、食事がたんなる「お腹を満たすためだけの行為」になってしまいます。(本書93〜94ページより)

さらにいえば、外に出たときにも活用可能だ。

電車に乗るとき、できるだけ目的地に早く着きたいからと、各駅停車ではなく急行を選びがちではありませんか? 仕事が忙しい平日はやむを得ないですが、休日に外出する際はあえて急行を見送り、各駅停車に乗ってみましょう。(本書99ページより)

スピードが遅い各駅停車なら、景色を見る余裕もできるはずだ(蛇足ながら、私はこれを以前から実践している)。

他にも、「ゆっくり動くものを目で追う」「ハンドドリップでコーヒーを淹れる」「森林浴の時間をつくる」など、0.75倍速行動を取り入れる機会は意外と多そうだ。気持ちに余裕を持つために、できそうなことから試してみてはいかがだろうか。

『0.75倍速健康法』
工藤孝文 著
1210円
フォレスト2545新書

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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