鳥山検校(演・市原隼人)に本を読んで聞かせる瀬川(演・小芝風花)。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第8回で印象に残ったのは、うつせみ(演・小野花梨)とわりない仲になっている新之助(演・井之脇海)が身請けについて蔦重(演・横浜流星)と語り合う場面です。

編集者A(以下A):100両とか200両が最低限必要という言い回しでした。いまでいうと100両は800万円~1000万円ほどの金額になりますでしょうか。

I:女郎の身請けは「年期明けまで勤め上げる」「亡くなる」以外に吉原の外に出られる数少ない手段だったんですよね。

A:「足抜け」という「逃亡」も手段としてはありましたが、警備が厳重でほぼ無理だったようです。ですから、「身請け」は女郎にとってはある種の希望でもあったのでしょう。『べらぼう』の時代より前になりますが、吉原最大の身請けは大名によるものであることが伝わっています。

I:三浦屋の高尾太夫ですね。「吉原身請け」の最上位に位置する大イベントだったと思われます。蔦重よりちょっと前の時代の話ですね。

A:姫路藩主榊原政岑(まさみね)が妓楼三浦屋の高尾太夫を2000両以上とも総額6000両ともいわれる大金で落籍したことが知られています。政岑は、『どうする家康』(2023年)で杉野遥亮さんが演じた榊原康政(徳川四天王のひとり)の子孫になるのですが、高尾太夫落籍に伴う、吉原での派手な遊興が将軍徳川吉宗の勘気に触れて、西国の要衝姫路藩から、越後高田藩に転封の憂き目をみています。今となっては国宝にして世界遺産の姫路城から、現代では桜の時期に映える高田城へと「転勤」させられたということになります。

I:榊原政岑は、落籍した高尾太夫を側室として姫路、さらに転封先の高田まで同行させていたというのが感慨深いです。あの姫路城内の屋敷に吉原から側室となってやってきたわけですから。

A:大名に落籍された女郎はほかにもいます。例えば伊達綱宗に身請けされた、やはり三浦屋の高尾太夫。『べらぼう』の小芝風花さん演じる瀬川が5代目であるように、高尾太夫も三浦屋の名跡で何人もいましたが、伊達綱宗に身請けされたのは、俗に「仙台高尾」と呼ばれた女性です。さて、この先『べらぼう』ではどのような物語が待ち受けているのでしょうか。

検校と座頭

I:5代目瀬川を継承した花の井ですが、彼女のもとに鳥山検校(演・市原隼人)なる人物がやってきます。

A:鳥山検校は当時「大富豪」として知られた実在の人物です。検校とは盲目の人たちが組織している「当道座」の頂点に立つ位。一説によると徳川家康の弱者救済策の一環で、金貸しを生業とすることを許されたともいわれています。

I:このあたり「歴史の機微」として考察したいのですが、家康がよかれと思って始めた目の不自由な方への救済策ともいえる「金貸し業」が、150年以上経過して、「利権化」することによる弊害が顕著になっていくという流れですね。家康が、政道の基本として導入した朱子学が「田沼政治」の弊害になってきていたのに似ています。

A:勝新太郎さん主演の映画『座頭市』でおなじみの「座頭」も当道座の一員です。検校よりはだいぶ下位になりますが。

I:市原隼人さんは、『鎌倉殿の13人』(2022年)で八田知家を演じて以来の大河ドラマ登場です。八田知家役の際には、筋骨隆々な鎌倉御家人を妙演していました。なんだか懐かしいですね。NHKの最近のドラマでは『正直不動産』なんかでも渋みのある演技で盛り上げてくれました。

A:今回は、検校という難しい役どころですが、「これはすごい」と思わずうなってしまう感じでした。

江戸時代の人権。次ページに続きます

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