『金々先生栄花夢』と「夢」の話

I:さて、今週も『金々先生栄花夢』が登場しました。以前も触れましたが、目黒不動にお参りにきた主人公が、名物の粟餅を注文して、できあがるまでの間にうたた寝した際に見た夢を題材にした黄表紙です。
A:『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の「栄華乃夢噺」というのは『金々先生栄花夢』の「栄花夢」からインスパイアされたものと思っている研究者、作家は多いようです。
I:ということは、史実を描いていながら、建付けとしては、「夢の中の話」ということになるのでしょうか。
A:この頃の草双紙、黄表紙などは、その材を『平家物語』などの古典から得ているものが多いという説もあります。「栄花」「夢」というフレーズで想起されるのは『平家物語』巻一「祇王」の中にある「娑婆(しゃば)の栄花は夢の夢」というフレーズではないでしょうか。『新編 日本古典文学全集』(小学館刊)では、〈現世の栄華は夢の中で夢を見るようなはかないもの〉とあります。
I:夢の中で見る夢……。まさしく『金々先生栄花夢』ではないですか! 「夢」といえば、来年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』の主要登場人物になる太閤秀吉の辞世の句〈露とおち露と消えにしわが身かな なにわのことも夢のまた夢〉も想起されます。
A:太閤の栄華も夢の中で見た夢だとすると、なんだか感慨深いですね。
I:そういう流れでいうと『べらぼう』は、「蔦重のみた夢」という感じになるのでしょうか。
A:そういう考察も今後も展開していきたいですね。さて、その一方で、老中の職にありながら、その出自が低いことを名門の先輩、同輩に揶揄される田沼意次(演・渡辺謙)。この場面は切ないですね。せっかく用意した武具に難癖をつけられるなど、高家吉良上野介にいじめられたとされる浅野内匠頭のようで、悲しくなります。
I:指南役にいじめられるという構図ということでいえば、そうかもしれませんね。それにしても両者を比較するとは、穏やかじゃないですね……。ところで、終盤で描かれた吉原の忘八のおやじたちが蔦重の味方をして鶴屋(演:風間俊介)をやり込めた場面は痛快でした。
A:江戸幕府パート、吉原パートともにおもしろい展開になってきましたね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
