収穫したサツマイモは高温・高湿度の環境に数日置く。表面の傷がコルク化して雑菌が入りにくくなる。写真は埼玉県にある「むさし野自然農場」の室。

独自ブランドのサツマイモも続々登場

サツマイモには100種類以上の登録品種があるが、街中で見かけるサツマイモには他にも様々な名前のものがある。

たとえば、登録品種から生じた突然変異の優れた株に、新しい名前をつけたもの。味に自信のある産地や農家が登録品種に独自の呼び名をつけて商標化を図る例も多い。空前の焼き芋人気の現在は、加工販売店が名づけた“焼き芋名”も増えた。

サツマイモの生産量が多い県のトップ3は鹿児島、茨城、千葉。鹿児島は主に焼酎原料で、茨城、千葉の多くは青果用である。

「焼き芋に使われるのは主に青果用品種。近年の大きな特徴は、焼き芋に照準を合わせたイモのブランド化が進んでいることです」

こう語るのは、焼き芋事情に詳しいさつまいもカンパニー代表の橋本亜友樹さんだ。焼き芋は食感のほくほくしたものが多かったが、平成の半ばに糖度と粘性が高い「安納いも」の焼き芋が評判を呼んだのを機に、ねっとりした食感を持つ青果用品種が注目されるようになったという。

貯蔵技術の向上も甘さの秘密

「貯蔵や焼き方の技術向上も見逃せません。サツマイモは秋に収穫しますが、寒さに弱く10℃以下になると傷口から腐敗しやすい。原因となる表皮の傷を直す“キュアリング”と呼ばれる技術が広まりました。温度調整できる設備も増え、貯蔵中の品質が安定しました。

適温で貯蔵を続けると、でんぷんの一部が糖に転換し、甘さが次第に増していきます。こうした貯蔵と熟成の知識や技術が全国的に共有され、さらにサツマイモの品質が向上しています」

焼き芋向きの品種の食感は大きく3つに分けられる。ほくほく系、しっとり系、ねっとり系だ。サツマイモを加熱するとでんぷんが糊化し、次いで糖化酵素が動きだす。酵素が最も活性化するのは70~80℃。この温度帯をゆっくり通過させると甘みが増す。焼き方によって、粘度と甘さを変えられるわけだ。こうした食味の向上は、専門店の独自技術によるところも大きいと橋本さんは語る。

橋本さんは下図のように、焼き芋向きの代表的な品種の「甘さと食感」の関係を指標化しているが、ほくほく系の品種を、しっとり、ねっとりした食感に焼き上げる店もある。

橋本さんが作成した品種別の指標。ただしサツマイモの味は産地、栽培方法、貯蔵方法、時期、焼き方、食べるタイミングでも変わるため、あくまで「標準的な傾向」という。

解説 橋本亜友樹さん(さつまいもコンサルタント)

昭和53年生まれ。神戸大学大学院修了。植物育種学専攻。IT企業勤務を経て、一般社団法人さつまいもアンバサダー協会などを設立。

※この記事は『サライ』本誌2025年1月号より転載しました。

『サライ』2025年1月号特集は『極上の「焼き芋」』。

 

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