文/鈴木拓也
中高年にさしかかると、様々な身体の不調に見舞われやすくなるが、なかでも泌尿器科系のトラブルは厄介だ。
なんでも、40代以上の3人に1人は、尿もれや頻尿、夜間頻尿といったトラブルを抱えているとか。
周囲に気軽に打ち明けにくく、医療機関を訪ねるのも気後れしてしまうため、人知れず悩みを抱えてしまう。
しかし、自然に治ることはなく、いつかは向き合わねばならないのだが、軽度であればセルフケアで対処できるという。
そう説くのは、医療法人インテグレス理事長などを務める泌尿器科医、伊勢呂哲也医師だ。伊勢呂医師は、著書『尿もれ・頻尿・夜間頻尿 尿トラブルの治し方』(Gakken https://hon.gakken.jp/book/2380228300)で、誰でも自宅で行えるセルフケアを多数紹介。好評で、多くの人に読まれているという。
今回は、本書にあるセルフケアや日常の注意点を一部紹介しよう。
キーワードは「骨盤底筋」
中年以後の尿もれの多くは、骨盤底筋(ていきん)のゆるみや衰えが関係している。これは、筋肉、筋膜、靭帯などから構成されている筋群で、骨盤の底部に位置している。骨盤内の臓器を下から支える役割を担っており、膀胱や尿道を締める働きもある。
伊勢呂医師によれば、この働きには速筋と遅筋という2種類の筋肉がかかわっているといい、次のように説明している。
速筋は瞬間的に素早く収縮する性質があり、くしゃみや笑ったとき、ものを持つときなど、急に腹圧が高まった時に締める働きをもつ筋肉です。一方、遅筋は持続的に尿道や膣、肛門を締める働きがあります。(本書54pより)
これらの筋肉が衰えると、尿もれが起きやすくなる。加齢に伴う自然な衰えもあるが、肥満、運動不足、悪姿勢など様々な要因もからむ。特に女性は、妊娠・出産による骨盤底筋へのダメージや、更年期後の女性ホルモンの分泌低下もあいまって、尿トラブルに直面しやすい。男性の場合は、骨盤底筋の問題にくわえ、前立腺の肥大によって尿道が圧迫され、残尿感や尿意切迫感といった尿トラブルも経験しやすい。
骨盤底筋を鍛える基本のトレーニング
幸いにも、衰えた骨盤底筋は、簡単なトレーニングによって強化することが可能だ。
伊勢呂医師は、本書でいくつかの方法を挙げているが、ここでは「基本のトレーニング」を取り上げよう。1日6セット、毎日行うことで2~3か月で効果が現れてくるそうだ。
始める前に以下の図を見て、どの部分を締めるのかを把握する。そうすればトレーニングの効果は高まる。
では、トレーニング開始。以下のイラストを参考に、インストラクションにしたがってやってみよう。
1.あおむけになる。足を肩幅に開き、膝を少し立てる。手は体の横に置き、リラックスする。
2.男性は陰茎の付け根と肛門を、女性は尿道と膣、肛門を意識し、口から息を吐きながらおへその方に引き上げるように、10秒数える。
3.力を抜いて5~10秒間休む。2と3を10回繰り返して1セットとする。
1~3の動きで「遅筋」が鍛えられる。同じ要領で、2と同じ場所を1回につき1~2秒間キュッと締める動きを3回行う。5~10秒間休み、同じ動作を10回繰り返す。これで「速筋」が鍛えられる。遅筋と速筋のトレーニングを組み合わせると、さらに効果的。
水分摂取を適量に抑えることも重要
伊勢呂医師は、日常的に心がけておくべき生活習慣についても言及する。
例えば、尿量のコントロール。健康によかれと、水をよく飲む人は多いが、(夜間)頻尿の原因となりうるから注意が必要だ。そのための対策として、1日の水分摂取量の目安を守るようアドバイスする。その目安とは、自身の体重×20~25ml。例えば体重が68キロであれば、68×20~25=1360~1700mlとなる(夏場はもう少し増やす)。一度に100~200mlの分量とし、1日の間で小分けして飲むようにする。また、就寝の3時間ほど前から水分を控えるようにする。
水分といっても、カフェインを含むコーヒーや緑茶には利尿作用があり、膀胱を刺激する作用もあって、頻尿の原因となる。そのため、カフェイン飲料を飲みたいときは、1日1~2杯にとどめる。さらに唐辛子のような辛みのある香辛料や酸味の強い柑橘類も、膀胱を刺激する。よって、こうした食べ物を口にする場合は、朝食か昼食に限るようにする。
こうした飲食物に関する注意事項とは別に、意外なメソッドもある。それは、弾性ストッキングの着用で、下肢がむくみやすい人にすすめられている。むくみとは、日中に重力の影響で下肢にたまった水分や血液のこと。夜になって就寝すると、これは上半身に戻っていき、尿量が増える一因となる。そこで、日中は弾性ストッキングをはいて、むくみを防止することで、夜の頻尿を抑えることができる。なお、弾性ストッキングは、「医療用」「血行促進」「むくみ対策」などと表記のあるものを選ぶ。
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このように本書には、尿にまつわる不調を自力で改善する方法が、たくさん収載されている。日頃、こうしたトラブルで悩んでいるなら、一読してできそうなことからやってみるといいだろう。
本書内イラスト:さいとうあずみ
【今日の健康に良い1冊】
『尿もれ・頻尿・夜間頻尿 尿トラブルの治し方』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。