ライターI(以下I):第42回冒頭では、前週に発覚した道長(演・柄本佑)三男(明子の二男)顕信(演・百瀬朔)の突然の出家問題が展開されました。19歳の顕信が出家して、俗世とは訣別したということで、母の明子(演・瀧内公美)は半狂乱となって道長に詰め寄り、気を失ってしまいました。瀧内公美さんの鬼気迫る演技に、圧倒されました。
編集者A(以下A):三男顕信の出家は、道長にとっても衝撃的な事件だったようです。劇中では、衣服を手ずから手配して、叡山に送るように百舌彦(演・本多力)に指示する場面がありましたが、「父親道長」にとっても辛い出来事だったと思います。「道長ファミリー」全体のことを考えて、顕信の蔵人頭就任を拒んだ道長だったのですが。
I:「平安のゴッドファーザーの悲劇」ということですが、それもこれも三条天皇(演・木村達成)と道長の権力闘争の余波ということになります。こうした中で、三条天皇は、姸子(演・倉沢杏菜)を中宮にしたうえで、なんと一か月後に娍子(すけこ/演・朝倉あき)を皇后にすると宣言します。いったん間をあけて、道長を安堵、油断させたということでしょうか。
A:そもそも「一帝二后」(ひとりの帝に公的な后がふたり)というのは、あってはならないことでした。道長にとっては特大ブーメランでした。そもそも宮中の后の数についての問題は、道長の兄道隆(演・井浦新)が関白だった時に娘の定子(演・高畑充希)を一条天皇(演・塩野瑛久)に入内させた時にさかのぼります。当時の後宮には、下記の3人がいて三后に空位がありませんでした。
太皇太后:第63代冷泉天皇皇后だった昌子内親王
皇太后 :第64代円融天皇女御だった東三条院詮子(演・吉田羊)
皇后 :第64代円融天皇中宮だった遵子(演・中村静香)
ところが、関白道隆は、皇后と中宮を分離させるという離れ業を駆使することで、定子を中宮として、「四后並立」という状態をつくりだしました。
I:そうした前例をふまえた上で、道長は娘の彰子(演・見上愛)を入内させた際に、中宮定子を皇后定子として、娘の彰子を中宮とする「一帝二后」という状況を作り出したわけですね。
A:そうです。ただし、中宮定子を皇后にし、女御の彰子を中宮にした際には、そうしなければならない理由をしっかり「理論武装」していました。当時の太皇太后、皇太后さらに、中宮定子が皆出家の身なので、誰も神事を務めることができない。そのため、神事を催行できる后が必要ということが、大義名分としてありました。ところが三条天皇よる「一帝二后」は、そうした理由付けはなく、単に「一帝二后」に先例があるからいいじゃないと、なし崩し的に実行されてしまったというわけです。
I:いったんルールが切り崩されると、二例目からは「熟慮」が省略されてしまうという典型ですね。それにしても「娍子を皇后にしてくれないのなら、もう姸子のところには渡らない」という三条天皇の生々しい言葉は、鮮烈でしたね。
A:なかなか面白い展開でしたね。さて、娍子立后に関して、大納言の娘から立后した先例はないという問題については、娍子の亡父済時(なりとき)に「贈太政大臣」、つまり太政大臣の位を贈るということで体裁を整えたようです。
【三条天皇との確執がエスカレート。次ページに続きます】