石を投げられたという道長
I:今週私が気になったのは、道長が比叡山に訪れた際に、叡山の僧に石を投げられたことに触れられた場面です。
A:突然出家した顕信の受戒に立ち合うための叡山入りでした。劇中でも触れられましたが、下馬せずに騎乗のまま叡山に入ったためだといわれています。
I:道長が傲岸不遜だったということでしょうか。
A:いろいろな見方ができるでしょうが、私はそうは思いません。『光る君へ』ではあまり描かれませんが、この時期の道長は仏法に篤く帰依していましたから、本当に体調が悪かったのではないでしょうか。
I:なるほど。彰子の解任を祈念するために金峯山寺詣をしたのは5年前のこと。あの時は、難行をこなしていたわけですから、時の流れというのは残酷ですね。道長の体力も明らかに低下していたということでしょう。
A:権力者も大変ということですが、道長が叡山で顕信と面会したことが『栄花物語』に描かれています。その際に道長は「何事が辛かったのか、この私を薄情なと思うことでもあったのか。官位の不足が気がかりであったのか。ほかのことはともかく、この私が健在でいる限りは、どんなことでも見捨てておくようなことはあるまいと思っているのに、情けないことぞ。こうして母のことも私のことをも考えずにこんなことになるとは」と語りかけたそうです(口語訳は『新編 日本古典文学全集』より)。
I:父子の葛藤ですね。なんだか涙が流れてきそうです。そういえば、道長が顕信に贈った衣服ですが、出家者には華美であったことも記されていますね。
A:実資といい道長といい、子を思う親の心ってほっこりしますね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり