長く仕事人生を続けていくと、「この先も、今の仕事をこのまま続けていくべきか」という問題に突き当たる人も多いかと思います。今までの経験をもとに、スキルを磨いて社内で昇進を目指すことや、より高いポジションを目指して転職することはキャリアアップと呼ばれています。一方、キャリアチェンジとは、一般に今まで経験のない業界や職種に転職することです。
未経験の仕事に挑戦することは、新たな世界を知るチャンスでもありますが、リスクも大きいことは否定できません。中には、シニア世代になってからキャリアチェンジを考える人もいます。今回は、シニア世代のキャリアチェンジについて人事・労務コンサルタントとして、「働く人を支援する社労士」の小田啓子がリスクを中心に解説していきます。
目次
シニア世代のキャリアチェンジのリスク
キャリアチェンジをする前に考えたいこと
キャリアチェンジの失敗実例
キャリアチェンジの選択肢
まとめ
シニア世代のキャリアチェンジのリスク
少子高齢化の急速な進展により、高齢になってからも働き続ける人は年々増えています。高年齢者雇用安定法により、今では65歳までの雇用確保はすべての企業の義務となりました。さらに65歳以上、70歳以上になっても仕事を続けている人も少なくありません。老後の生活資金は十分余裕があるという人は少数派です。
再雇用か転職か?
60歳定年企業の場合、再雇用制度などを利用して同じ会社で働き続ける人は8割以上に達しています。再雇用は転職に比べると確実性がありますし、待遇が下がるとしても比較的安定した選択であると言えるでしょう。転職は、今までの経験を活かしたものであっても、一定のリスクはあります。まして、シニア世代になって未経験の世界にキャリアチェンジするのは、かなり思い切った選択といわざるを得ません。
経験がない仕事への就職は、若い人のほうが有利であることは確かです。シニア世代の場合、若い人ほど適応力がないのが普通ですから、新しい職場にうまくなじめるとは限りません。給与などの待遇についても、未経験の仕事では多くは望めないのが現実です。中高年になってからのキャリアチェンジは、こうしたデメリットがあることは認識しておく必要があります。
キャリアチェンジをする前に考えたいこと
シニア世代のキャリアチェンジは、事前の準備が重要になります。会社探しなどの具体的なアクションだけでなく、情報を収集して、キャリアチェンジの実情について理解することも大切です。早期退職、あるいは定年などで会社を辞めてキャリアチェンジする場合、中高年からのスタートになりますから、それなりの心構えが必要になります。自分は今後どのように働きたいのか、目的や希望を明確にしておきましょう。
キャリアチェンジにはメリットも
もちろんキャリアチェンジのメリットもあります。昔からあこがれていた業界や、希望していた仕事に就けるチャンスをつかむことができます。自分で事業を始めたい人は、起業して夢を叶えるという道もあるでしょう。
人生100年時代といわれている今、新たな挑戦を始めることは遅すぎるということはありません。人手不足が深刻になっている昨今、年齢や経験にこだわらない求人が増えていることも追い風になります。ただし、やはり問題となるのは経済面です。未経験の仕事では思い通りの待遇が得られないこと多いですから、生活資金などは十分に余裕を持って貯金などで備えておくことが大切です。
キャリアチェンジの失敗実例
シニアのキャリアチェンジはメリットもありますが、失敗例も多いのは確かです。よくある失敗例の一つは、今の自分について、分析ができていなかったケースです。シニア世代だと、体力や仕事を遂行する能力に衰えがあることは否めません。健康不安を抱えている人も多数います。
若い人と同様のシフトで働き、夜勤や長時間労働などについていけずに体調を崩す人も少なくありません。パソコンスキルなど、新しい変化に対応することが難しく、退職を余儀なくされる例もあります。もう一つの例とは、経済的な問題でキャリアチェンジに失敗するケースです。
例えば、退職してから次の仕事に就くまでのブランクが長い場合、資格取得などに相当なお金がかる場合などは、生活費についてはきちんと考えておかなければなりません。計画的に貯金をする、早い時期に資格を取得しておくなどの準備が必要になります。
起業する時の注意点
さらに大変なのは、起業する場合です。十分な見通しを立てずに、高額の初期投資をしてしまった場合、起業してすぐに困窮してしまうこともありえます。自分の会社を作ることが夢だったという話はよく聞きますが、シニア世代になって慣れない仕事を始めるのは大変です。
事業が見込み通りにいかない、病気になるなどのリスクは、想定しておかなければなりません。経済的な見通しの甘さから家族の不和を招いてしまい、幸福な老後が遠ざかってしまう例もあります。
キャリアチェンジの選択肢
シニア世代のキャリアチェンジは、自分自身を過大評価しないことがポイントです。シニアになっても夢や意欲を持つのは良いことですが、高すぎる理想を掲げることはやめましょう。自分の考えに固執せず、周囲や家族に相談する、専門家の助言を仰ぐのも一案です。ハローワークや自治体などでも、シニアの就職をサポートする窓口が用意されています。
シニア向けの求人サイトなどにも目を通しておくと良いでしょう。シニア世代のキャリアチェンジは、次のような点がポイントになります。
1.自分の趣味や、興味あるものにつながる分野を選択する。
2.勤務地、勤務時間などは、自分のライフプランに合わせて考える。
3.コミュニケーションスキルなど、自分の長所を活かせる仕事を選ぶ。
例えば、趣味の知識を活かせる店舗などで働く、自宅から近い場所、少ない勤務日数の仕事で私生活を充実させるなど、選択に失敗しないためにはなるべく早いうちから準備をし、心の余裕を持って仕事を探すことが大切です。
まとめ
シニア世代のキャリアチェンジはリスクもありますから、不安を感じて踏み切れない人もいると思います。けれども、人生は長いものです。今までの仕事から離れて、未経験の世界に挑戦することは決して無謀なことではありません。後悔しないキャリアチェンジをするためには、情報収集と自己分析がカギになります。意欲の持てる仕事に出会えて、幸福なシニアライフを送っている人も多数います。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com