会社員の皆さんは、毎月の給与明細をしっかり確認していますか? 給与明細の控除欄を見ると、所得税や健康保険・厚生年金保険のほかに、雇用保険料という項目が記載されていると思います。
雇用保険に加入していると、どんなメリットがあるのでしょうか? 会社を辞めたら、失業手当をもらうためのものと考えている人は多いと思いますが、雇用保険の役割はそれだけではありません。実は雇用保険には大変多くの給付があります。本記事では、雇用保険の基本について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
雇用保険とは? 加入条件など
企業側が行なう雇用保険の手続きとは?
もし、会社が雇用保険に加入していなかったら? トラブル事例を紹介
まとめ
雇用保険とは? 加入条件など
雇用保険は、もともとは失業者の生活の安定のために昭和22年に施行されました。その後の幾度かの改正を経て、今では雇用に関する様々な機能を有する制度になっています。
これは法令の条文にも書かれていることですが、失業した場合のほか、「雇用の継続が困難となる事由」が生じた場合にも給付を受けることができます。具体的には、育児や介護で休業する場合、高齢で給与が減った場合などに一定の給付を受けられます。
さらに、労働者が仕事のスキルアップを目指して教育訓練などを行なった場合、費用の補助をする制度もあります。これらの制度は実際に使った人でないとピンと来ないかもしれませんが、仕事を続けるために大きな助けになる制度です。もし、育児や介護、資格取得や退職などの予定がある人は知っておくと良いでしょう。
雇用保険は、働いていれば誰でも入れるというわけではありません。加入するためには、いくつかの条件があります。1週間の所定労働時間が20時間以上であること、31日以上雇用される見込みであること、役員および学生ではないこと、などです。
その他に細かい条件もありますが、基本的に継続して働き続ける人が対象になります。もちろん社員だけでなく、週20時間以上働くパートさんも対象になりますので、職場の大半の人が雇用保険加入者ということになります。
企業側が行なう雇用保険の手続きとは?
人を雇用しているほとんどの企業は、労働保険の適用事業所になっています。労働保険というのは労災保険と雇用保険のことです。労災保険は、一人でも労働者を雇用していたら、その働く時間や日数にかかわらず、企業は加入しなければなりません。労災保険料は全額会社負担ですので、働く人の負担はありません。
一方で雇用保険は、加入者と会社の双方に保険料の負担があります。加入条件をクリアする人が会社に入社したら、その日から雇用保険加入者となりますので、会社はハローワークに資格取得の手続きをしなければなりません。
新卒の学生などは新規に資格取得することになりますが、以前会社勤めをした経験のある人は、前職で雇用保険に加入していたと思います。雇用保険番号は、転職しても変わりませんので、入社の際に所持している雇用保険被保険者証を会社に提出します。被保険者証をなくしてしまった場合は、履歴書など前職の企業名がわかるものを用意しましょう。
雇用保険に加入すると、必要な場合に給付を受けることができます。在職中の給付としては、育児休業をする場合に休んだ間の賃金の補填としての育児休業給付金、介護のために休業する場合は介護休業給付金があります。
また、60歳前と後で賃金が低下した場合は、その減額率によって高齢者雇用継続給付金が受給できます。これらの給付金は、受給できる条件がありますし、人によって金額も変わります。給付金は個人に支払われますが、多くは会社が窓口となって代行申請してくれると思いますので、会社に確認しましょう。
もう一つ重要な給付は、退職後の失業給付です。社員が会社を退職する時は資格喪失の手続きをしますが、会社は退職者のうちの希望者(59歳以上の場合は希望しなくても)に、離職票交付の手続きをしなければなりません。退職者はこの離職票を持って、ハローワークで失業手当の受給手続きをすることになります。
さらに在職者、退職者ともに対象になる「教育訓練給付」というものもあります。資格取得やスキルアップのための学習を考えている人は、制度について調べておくといいでしょう。
もし、会社が雇用保険に加入していなかったら? トラブル事例を紹介
このように給付制度の多い雇用保険ですが、もし会社が雇用保険に加入していなかったらどうなるのでしょうか? まず、給与明細の控除欄をよく見ましょう。自分が加入の条件に該当すると考えられるのに、「雇用保険料」という控除がない場合は、会社に確認しましょう。
まれな例ですが、会社が雇用保険の適用手続きをしていないということもあります。困るのは、給与から保険料が引かれているにもかかわらず、加入していなかったというケースです。これでは社員は給付を申請する事態がなければ、未加入であることに気がつきません。
雇用保険未加入によるトラブルは後を絶ちません。例えば、子供が生まれて育児休業をする時、家族の介護をすることになった時、会社を休んで給料が支払われなくても、雇用保険からの給付はありません。本来ならば定められた給付を受けられるはずなのです。
60歳を過ぎての継続雇用で給与が下がっても、何の給付も受けられません。さらには、会社を退職しても失業手当をもらえないということになります。未加入が発覚した場合はどうしたらいいのでしょうか? これには救済策があります。
会社そのものが適用事業所になっておらず保険料を払っていなかった場合は、後から納付することで2年間はさかのぼって加入することができます。また、手続き漏れで未加入になっていた場合でも、給与から雇用保険料が控除されていることが明らかならば、2年より前の期間も加入手続きをすることが可能です。
未加入だった場合はあきらめずに、ハローワークに問い合わせてみてください。
まとめ
雇用保険は、働く人を経済的にサポートする公的保険です。在職中も育児や介護、高齢などに対応する給付があります。会社を退職して求職活動をする場合でも、失業手当だけでなく再就職手当や教育訓練給付などの各種制度を利用できます。
雇用保険制度について知っておくことは、仕事を続けるにしても、転職するにしても役立つことが多いでしょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com