人手不足の昨今、労働市場は活況です。勤めていた会社を辞めて転職することはよくあることになりました。転職者の中には、在職中に次の職場を決めている人もいますが、退職後に失業手当を受給しながら仕事を探す人も多数いると思います。失業手当を受けるためには、被保険者期間など一定の要件を満たさなければなりません。
今回は、雇用保険の被保険者期間の計算方法について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
令和2年の法改正で、雇用保険は何が変わった?
被保険者期間となる日数と労働時間はどう計算する?
労働時間が月80時間を超えたり、超えなかったりする場合どうなる?
まとめ
令和2年の法改正で、雇用保険は何が変わった?
令和2年施行の改正で変わった点の一つに、被保険者期間の算定があります。どのように変わったのか、見ていきましょう。
雇用保険の給付は何がある?
雇用保険制度には失業等給付のほか、育児・介護休業給付、高年齢雇用継続給付など、多くの給付があります。これらの給付は、申請すれば誰でももらえるというものではなく、受給するためには被保険者期間が一定以上あることが必要です。ここでは失業等給付の中の求職者給付について取り上げます。
求職者給付には、一般被保険者に対する基本手当と、65歳以上の人を対象とした高年齢求職者給付金という一時金があります。いわゆる失業手当というのは、基本手当のことを指します。基本手当を受給するための要件は「就職する意思、能力があり、いつでも仕事に就くことができること」に加えて、「離職の日以前2年間に12か月以上被保険者期間があること」です。
これが、倒産・解雇などの会社都合による離職や、やむをえない理由がある離職の場合、必要な被保険者期間は、離職の日以前1年間に6か月以上に短縮されます。
被保険者期間の計算はどのように変わった?
月の中途で就職あるいは退職する人は多いかと思いますが、被保険者期間はどのように計算されるのでしょうか? 被保険者期間は、離職日から1か月ごとに区切っていった期間に、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月として計算します。月給制の社員でしたら、1か月間のうち賃金の支払基礎日数は暦日ですので、日数の計算はわかりやすいと思います。けれども、時間単位で賃金が支払われる労働者はどうでしょうか?
所定労働時間が週20時間以上という要件を満たして雇用保険に加入していても、働く日が月に11日未満という人もいると思います。そのような人を考慮して、雇用保険の改正が行なわれました。令和2年8月1日以降に離職した人の被保険者期間は、賃金の支払基礎日数が11日以上または、11日以下であっても労働時間が80時間以上ある月は1か月と算定されます。
この改正により非正規雇用の労働者のうち、多数の人が新たに失業手当の対象となりました。ちなみに、育児・介護休業給付や高年齢雇用継続給付金の対象者も、被保険期間1か月の数え方は、11日以上もしくは80時間以上の労働時間に改正されています。
被保険者期間となる日数と労働時間はどう計算する?
被保険者期間1か月と算定されるためには、日数または労働時間の条件を満たす必要があることはわかりました。実際、どのように計算するのか見ていきましょう。
労働時間が80時間未満の月はどうなる?
失業手当をもらうためには、離職票の交付を受けてハローワークで求職の申し込みをしなければなりません。離職票がどのように記載されているかということは、大変重要です。離職票には、離職の日から1か月ずつさかのぼって、被保険者期間算定対象期間と、その期間の賃金支払基礎日数および賃金額などが記載されています。
ここで1か月ごとの賃金支払基礎日数に着目してみましょう。
この日数が11日以上であれば被保険者期間1か月と算定されます。たとえ労働時間が月80時間未満であったとしても、その記載は必要ありません。日数の要件を満たしていれば1か月とみなされるのです。つまり、離職の日以前の1年間の各月の賃金支払基礎日数がすべて11日以上であれば、1年間で12か月の被保険者期間を満たすことになります。
日数の要件を満たさない場合、被保険者期間はどうなる?
賃金が時給あるいは日給制である場合は、1か月に働いた日が10日以下ということもあると思います。賃金支払基礎日数が10日以下であるときは、その月の労働時間を見ることになります。80時間以上働いていれば、11日以上働いていなくても、その月は1か月と算定されるのです。
賃金支払基礎日数が10日以下の月については、備考欄にその月の労働時間を記載することになっています。この記載が80時間以上であれば、被保険者期間1か月とみなされます。退職して離職票の交付を受ける場合は、被保険者期間の記載内容については十分に注意する必要があります。
労働時間が月80時間を超えたり、超えなかったりする場合どうなる?
非正規雇用が増えた今、月の労働時間が80時間を超える月と超えない月があるというのは、よくあるケースだと思います。この場合、離職票はどのような記載になるのでしょうか? 被保険者期間1か月と計算されるためには、まずは賃金支払基礎日数が11日以上であることが優先されます。
さらに、賃金支払基礎日数が月に10日以下の人の救済策として、労働時間が80時間以上ならば1か月と数えるルールが適用されることになります。
10日以下の勤務で労働時間も80時間未満であったら、その月は被保険者期間1か月とはみなされません。1か月とみなされない月があった場合は、その月の分、被保険者期間算定対象期間をさかのぼって見ることになります。例えば、離職の日以前1年間のうち、1か月とカウントされない月が3か月あったとすると、被保険者期間は1年と3か月以上さかのぼります。
その結果、2年間に被保険者期間が12か月以上という要件を満たせば、基本手当の受給対象になります。
まとめ
かつて雇用保険の加入者が正社員中心であった時代は、被保険者期間1か月を日数で判断することは、大きな不都合はありませんでした。しかしながら、多様な働き方が広がった今、日数だけで判断すると、雇用保険に加入していても失業手当をもらえないケースが多数出てしまいます。
その意味で令和2年の改正は、働く人の実態に沿ったものと言えるでしょう。退職するときは、自分が失業手当の受給対象であるのかどうか、被保険者期間についてはしっかり確認しましょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com