会社員を続けていれば、多くの人がいずれ定年を迎えます。昔は定年というと、仕事人生に区切りをつけて、年金や貯蓄を中心とした生活に移るという考え方が一般的でした。しかしながら、平均寿命が延びて健康な高齢者が増えた今、仕事からリタイアする時期は遅くなりました。定年の延長や廃止で長く働く人、定年後再雇用される人、別の職場に転職する人など、高齢者の働き方は様々です。

今回は、定年後の再雇用について、その心構えを中心に人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
再雇用される際の心構え
再雇用した後の仕事内容や待遇面は変わる?
再雇用された後が辛い… よくあるケースを紹介
まとめ

再雇用される際の心構え

再雇用の心構えを考える上で、まずは定年後再雇用制度とはどんな制度なのか見ていくことにしましょう。

定年後再雇用とは?

定年後再雇用制度とは、定年退職後も労働者が企業と雇用契約を結んで働き続ける制度のことです。少子高齢化の進展や、老齢年金の受給開始年齢が65歳以上となったことを受けて、「高齢者雇用安定法」は段階的に改正されてきました。現在は、定年を60歳未満とすることは禁じられています。

また、定年が65歳未満である場合は、企業は希望者全員が65歳まで働けるようにしなければなりません。政府は、65歳までの雇用確保のために、「定年の廃止」「定年年齢の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置をとることを企業に義務付けています。

令和5年の厚生労働省の報告によると、この3つの中では、約7割の企業が「継続雇用制度の導入」を採用しています。定年後の再雇用制度は、この継続雇用制度の一つなのです。

定年後、仕事から離れて悠々自適に暮らす人はごく少数になりました。定年後に転職する人も一部いますが、多くの人が再雇用制度などを選択して仕事を続けているのが現状です。

再雇用の心構えとは?

同じ会社で働いていても、定年後の再雇用は現役時代とは様々な面で異なります。戸惑うことのないよう、自分自身の心の準備が必要です。再雇用を選択するときは、次のようなことに留意しましょう。

・自社の再雇用制度について、内容を十分に確認する。
・以前の地位や業務に固執しない。
・経済的な面も含めて家族とよく話し合う。
・健康、体力の維持に注意する。

定年後はいわば第2の人生です。定年前の自分に執着せずに、気持ちをリセットして仕事を続けましょう。また、定年後の生活設計は大変重要なことです。再雇用後の給与、退職金、貯蓄などについて家族と十分に話し合うことです。そして何より、不安なく働けるように健康、体力を維持する努力が必要です。

再雇用した後の仕事内容や待遇面は変わる?

定年後再雇用の場合、仕事内容や待遇はどうなるのでしょうか? これは会社の規模によって異なります。一般的に、小さな会社の場合は仕事内容が変わらないことが多く、大きな組織の場合は、仕事の内容が変化する、責任が軽くなるケースが多くなります。

これはやはり、中小企業では人員に余裕がないことが多く、その人に代わる人がなかなかいないという事情によるものでしょう。大企業の場合は、毎年定年退職者も新入社員も数多くいますので、世代交代というものを意識せざるを得ません。

労務管理について

労務管理を合理的に行なう上でも、再雇用後の賃金・労働時間などのルールを定めて運用していることがほとんどです。例えば、役職を外す、労働時間・労働日数を少なくするなど。それに伴って給与・賞与などを下げることが多いようです。賃金については65歳前と65歳以上で、注意する点があります。

賃金が60歳前と比べて60歳以後に75%以下に下がった場合、65歳までは雇用保険の高年齢雇用継続給付を利用することができます。賃金の低下率に応じて、低下後の賃金の最大15%まで支給される仕組みです。

ただし、60歳以上の雇用が浸透したことに伴い、この制度は将来的には縮小、廃止が見込まれています。65歳以上の場合は給与とあわせて年金を受給している人が多くなります。この場合、「在職老齢年金制度」により、賃金が高い人は年金が一部減額になることがありますので注意が必要です。

再雇用された後が辛い…よくあるケースを紹介

定年後、再雇用で会社に残ったが辛い思いをしているという話はしばしば耳にします。今までと同じ仕事をしているのに給与が下がった、あるいは冷遇されるようになったという不満を口にする人は多く見られます。現実は、年齢だけを理由に給与が下がったのではなく、役職者ではなくなった、労働時間・勤務日数が変わったなどの理由で給与が減額されているケースが大半だと思われます。

それでも辛いと感じるのは、待遇より精神面の悩みのほうが大きいのかもしれません。これは、以前の地位や会社での役割に固執しすぎている人に多く見られます。

再雇用ならではの悩みとは

「若手の仕事が未熟で、口出ししてしまう」
「役職・権限がなくなって、取引先などに対して肩身が狭い」
「年下の部下が上司になって、抵抗を感じる」

このような不満がくすぶって、ストレスを感じていることが多いものです。また、こうした不満が言動に出てしまい、若手に煙たがられて居心地の悪さを招いているのかもしれません。過剰なプライドを捨て、心の余裕を持って仕事に臨みましょう。

定年後も仕事を続けていくためには、周囲と円滑な人間関係を築くことが重要です。それでも中には、実際に不当な待遇や高齢者へのハラスメントがある職場もあります。このような事例は裁判になっているものもありますが、無理に会社と争わずに、退職して次の職場を探すのも一案です。

退職して求職活動をする場合は、65歳未満なら基本手当、65歳以上なら高年齢求職者給付金という失業給付を受けることができます。

まとめ

人生100年時代、元気な高齢者は沢山いますから、高齢者が社会で活躍し続けるのは良いことです。定年後も仕事を続けていく上で大切なのは「心の余裕」です。再雇用制度の仕組みをきちんと理解して、老後の生活プランを立てておきましょう。

会社だけにこだわらず、家族や地域社会の中で新たな楽しみを見つける努力も必要です。職場では、若い世代と適度のコミュニケーションをとりながら、良好な人間関係を保っていきましょう。健康でストレスなく、仕事を続けることが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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