「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努力をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶力の鍛錬につながると言われています。
「脳トレ漢字」第176回は、「徒に」をご紹介します。現在はほとんど使われなくなりましたが、古典文学や和歌などにはよく見られる表現です。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「徒に」とは何とよむ?
「徒に」の読み方をご存知でしょうか? 「とに」ではなく……
正解は……
「いたずらに」です。
『精選版 日本国語大辞典』では、「何ら目的、理由、原因などがないのに、物事をしたり、状態が進行したりするさまが甚だしい様子」「わけもなく、ただひたすら」と説明されています。現代の感覚で「いたずら」と言えば、「悪ふざけをすること」という意味になります。
しかし、古典の世界では「むやみに」「無駄に」という意味で使われているのです。また、「期待外れである」「儚い」という意味として、「徒に」が使われることもあります。
「徒に」の漢字の由来は?
「徒」という漢字には、「むなしい」「役に立たない」「無駄」という意味が含まれます。また、古典作品に見られる「徒(あだ)く」という表現には、恋愛にうつつを抜かしているという意味があります。現在でもよく使われている漢字ですが、あまり良い意味は含まれていないと言えるでしょう。
「徒」に関する百人一首
皆さまは、「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」という和歌をご存知でしょうか? これは、三十六歌仙の一人・小野小町が詠んだ歌で、「花の色は、春の長雨が降っているうちに色あせてしまった。物思いに耽っている間に、私の美貌が衰えてしまったように。」という意味です。
見頃が過ぎた花と、年老いた自分自身を重ねているこの和歌は、人生の儚さを題材にしていると言えるでしょう。伝説の美女として、現在でも広く知られている小野小町。彼女のその後については詳しく分かっていませんが、一説では各地を転々とする晩年を過ごしていたと言われています。
周囲から一目置かれるほどの才色兼備であったからこそ、衰えていく自分自身に感じる侘しさも人一倍強かったのかもしれません。
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いかがでしたか? 今回の「徒に」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「徒に」には「むやみに」や「儚い」など、複数の意味があることが分かりました。現代語と古語では、読みは同じでも意味が全く異なるということがよくあります。
ほかにも調べていただくと、古典の奥深さを感じることができるかもしれません。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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