字画も少なく、しょっちゅう目にする簡単な漢字。読めそうなのに、いざ声に出して読もうとすると、正しく読めるかどうか⼼配になって、思わず声を細めてしまう漢字ってありませんか? サライ世代ともなりますと、いったん思い込み認知をしておりますと、なかなかイニシャライズ(初期化)が難しいですよね。
簡単な漢字であっても、脳トレ漢字の記事を読みながら確認学習をしていただくことで、思い込み認知をイニシャライズできる機会になると思います。
「脳トレ漢字」第167回は、「弁え」をご紹介します。「弁当」や「弁解」などの言葉にも使われている「弁」。動詞になると、ほかとは異なる読み方になります。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「弁え」とは何とよむ?
「弁え」の読み方をご存知でしょうか? 「べんえ」ではなく……
正解は……
「わきまえ」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「物事の違いを見分けること」「道理をよく知っていること」と説明されています。「弁え」は大変古い言葉で、平安時代には既に使われていました。当時使われていた、道理を理解する・心得るという意味を持つ「弁ふ」が、現在の「弁え」の意味につながっているそうです。
「物事の善悪を弁える必要がある」「TPOを弁えた服装をするべきだと思う」などのように使うことができます。
「弁え」の漢字の由来は?
「弁」という漢字の旧字は「辨(べん)」で、裁判すること・物事を明らかにすること・わきまえることという意味が含まれていたそうです。旧字の「辨」の意味が転じて、わきまえる・分けるという意味を持つ「弁」が出来上がったと考えられます。
山川菊栄と女性解放運動
某スポーツ委員会会長の発言により、「わきまえない女」論争が巻き起こってから、はや2年半。明治44年(1911)9月に創刊された、日本初の女流文芸雑誌・『青踏』を生み出した青鞜社の人々は、「元祖・わきまえない女」だったと言えるかもしれません。
青踏社といえば、編集長を務めた平塚らいてうが有名ですが、女性運動家・山川菊栄(やまかわ・きくえ)もまた、女性論壇の第一人者として活躍しています。大学卒業後、社会主義を学んだ山川菊栄。女性の経済的自立と働く女性の保護を主張し、大正10年(1921)、日本初の社会主義婦人団体・赤瀾会(せきらんかい)の結成に貢献しました。
戦後の昭和22年(1947)には、労働省婦人少年局(日本で初めて、女性問題を専門に扱った部局)の初代局長を務め、女性労働者や年少労働者に関する行政の基礎を作っています。同年、「労働基準法」が制定されたことで、産休育休制度や時間外労働の制限などが定められ、労働環境の向上につながったのです。
その後、労働基準法の規定は男女平等を妨げるものとして、一部変更されています。しかし、出産や育児を理由に解雇されることのない社会をめざした山川菊栄は、働く女性の礎を築いた人物であると言えるでしょう。
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いかがでしたか? 今回の「弁え」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「弁え」には、物事の違いを見分ける・道理をよく知っているという意味があることが分かりました。
「新しい女」として賛否を巻き起こした、山川菊栄。最低限のマナーとして、弁えた言動を心がけることは大切ですが、時には自分の信念を貫くことも必要なのかもしれません。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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