朝食のお握りと昼食の弁当を持って、仕事現場に直行。途中で食べる朝の黒米入り玄米お握りと果物が、一日の活力源だ。
【今城哲浩さんの定番・朝めし自慢】
ともかく忙しい人である。休みはほとんどない。
「昼は現場、夜は事務作業や施主さんの意向に沿ったサンプル作り。休めるのは年末年始ぐらいです」
と、『今城左官(いまじょうさかん)』2代目の今城哲浩(いまじょうてつひろ)さんは語る。
福岡県に生まれ、2歳の時に神奈川県に移る。車やバイクが好きで、自動車関係の仕事を志したが、家庭の事情により高校を退学。17 歳で父の背中を追い、左官の道に入った。抵抗はなかったという。
「父が興した『今城左官』には当時、15人ぐらいの住み込みの職人さんがいて、父や職人さんの働く姿を見て育っていますから違和感はなく、いずれは父の会社を継ぐのだろうとも思っていましたから」
左官業はマンションなどの集合住宅の仕事と、戸建て住宅の仕事というように得意分野がはっきりと二分されていることが多い。だが、『今城左官』の強みは、その両方を手がけられることだ。事実、先代の頃はビルがメインだったが、代替わりした現在は住宅の仕事も増えているという。
「ビルの仕事は下地としての作業が多い。我々が作った壁の上にタイルを貼ったり、ペンキを塗ったりしますから、完成すると隠れてしまう。それに対して、住宅は左官の仕事が表に見えますから、よりやり甲斐がある。今は建築家と左官職人とで、相談や交渉をする仕事も多くなっています」
その例が、パリに拠点をおく気鋭の建築家・田根剛さんと組んだ『ジャイルフード』(下画像)だ。
腸内環境を整える玄米
左官職人の朝は早い。5時起床、6時には朝食のお握りと昼食の弁当を持って、車で現場に向かう。
資代(もとよ)夫人が心がけているのが、お腹の調子を整える食事だ。
「10年以上前からわが家では、ご飯といえば黒米と玄米粉が入った玄米ご飯です。玄米は栄養価も高く、食物繊維も豊富ですから」
昼食の弁当には、5種類以上のおかずが入る。3食の中でもこの昼食に重きをおいているからだ。夕食はごく軽めで、ビールの友としてオクラ納豆などの野菜が中心だ。夕食前には腸のスペシャリスト、順天堂大の小林弘幸教授が推奨する“味噌玉スープ”が定番。お腹を整えるのが健康の基本だ。
コテアートで広く左官の可能性を知らしめたい
今城さんが手がけた洗面台がきっかけだった。その出来映えを見て、声がかかったのだ。
「建築の一部である洗面台を見た、あるギャラリーから“左官の手法で手水鉢(ちょうずばち)を作ってほしい”という依頼があったのです」
10年ほど前のことである。この手水鉢を1作目として、今城さんの唯一無二の技、コテアートが始まった。花器を例にとると、膨らませたゴムマリにモルタルやセメントをコテで塗り重ね、固まったらゴムマリの空気を抜く。これを磨いて仕上げるのが基本的な手法だが、左官業45年、多くは語らぬが、秘めたる技もあるに違いない。
作品は『TE HANDEL home/gallery』(神奈川県中郡大磯町大磯131-1 電話:0463・26・9755 電話で要予約)に展示。また11月28日~12月3日まで『美庵』(東京都中央区銀座8-7-6-5F 電話:03・3573・8700)で個展を開催予定だ。
コテアートを始めたこの10年、左官業では建築家や設計士からの依頼も多い。長男は一級建築士の資格を取得。父子鷹の活躍に目が離せない。
※この記事は『サライ』本誌2023年6月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )