朝食のお握りと昼食の弁当を持って、仕事現場に直行。途中で食べる朝の黒米入り玄米お握りと果物が、一日の活力源だ。

【今城哲浩さんの定番・朝めし自慢】

手前は資代夫人特製の玄米お握り(黒米・玄米粉/下画像参照。具は昆布)、林檎 、アイスコーヒー。お握りの具は好物の明太子に替わることも。果物は林檎が定番だが、晩夏から秋にかけては地元名産の梨が登場することもある。飲み物は一年を通してアイスコーヒーで、コンビニで購入する。
「玄米粉」500g1770円、「ほたる玄米」1kg1300円、「ほたる黒米」300g1000円。
ちだま農園・ちだま茶屋/山梨県富士吉田市大明見3537
『ちだま茶屋』または通販で購入可。https://chidama-farm.com/
(ただし黒米は『ちだま茶屋』での販売のみ)。
「現場到着の時間が読めたら、コンビニの駐車場で朝食。6時半頃ですね」と車の中でお握りを食す今城哲浩さん。アイスコーヒーが好きで、冬でもお茶よりアイスコーヒーだ。
ある日の弁当は、手前左から黒米入り玄米ご飯の上に焼き鮭、梅干し、沢庵、市販の春雨スープ、おかずの段はほうれん草とシラスとシーチキンの胡麻和え、蓮根のきんぴら、カボチャサラダ、ハム、海老寄せ、卵焼き。
夕食の前に飲む“味噌玉スープ”。赤・白味噌にすりおろし玉ねぎ、リンゴ酢を混ぜて1食分(30g)ずつ冷凍し、これを熱湯で溶かす。今城家ではさらに玄米粉も混ぜる。

ともかく忙しい人である。休みはほとんどない。

「昼は現場、夜は事務作業や施主さんの意向に沿ったサンプル作り。休めるのは年末年始ぐらいです」

と、『今城左官(いまじょうさかん)』2代目の今城哲浩(いまじょうてつひろ)さんは語る。

白くて美しい漆喰塗りをする今城さん。コテ使いが鍵で、その動かし方や当て方でさまざまな表情を壁にもたらす。その他、石灰や土、セメント、砂、繊維、糊、顔料といった各種材料の配合により、塗り壁の世界はより多彩だ。
高度な研ぎ出し仕上げで、デザイン性高く仕上げた床。これは砂利と色セメントで模様を描いた後、硬化してから磨いて仕上げる技法だ。洋風スタイルに合う研ぎ出しも可能で、左官の可能性は無限に広がっている。

福岡県に生まれ、2歳の時に神奈川県に移る。車やバイクが好きで、自動車関係の仕事を志したが、家庭の事情により高校を退学。17 歳で父の背中を追い、左官の道に入った。抵抗はなかったという。

「父が興した『今城左官』には当時、15人ぐらいの住み込みの職人さんがいて、父や職人さんの働く姿を見て育っていますから違和感はなく、いずれは父の会社を継ぐのだろうとも思っていましたから」

左官業はマンションなどの集合住宅の仕事と、戸建て住宅の仕事というように得意分野がはっきりと二分されていることが多い。だが、『今城左官』の強みは、その両方を手がけられることだ。事実、先代の頃はビルがメインだったが、代替わりした現在は住宅の仕事も増えているという。

「ビルの仕事は下地としての作業が多い。我々が作った壁の上にタイルを貼ったり、ペンキを塗ったりしますから、完成すると隠れてしまう。それに対して、住宅は左官の仕事が表に見えますから、よりやり甲斐がある。今は建築家と左官職人とで、相談や交渉をする仕事も多くなっています」

その例が、パリに拠点をおく気鋭の建築家・田根剛さんと組んだ『ジャイルフード』(下画像)だ。

東京・表参道『ジャイル』4階にある『ジャイルフード』。建築家・田根剛さんが手がけたレストラン空間で、田根さんの依頼を受けて壁、床、ベンチ、テーブルを今城さんが担当した。壁は吹付工法で溶岩のような質感、床は填圧工法で土の三和土(たたき)をイメージしたという。

腸内環境を整える玄米

左官職人の朝は早い。5時起床、6時には朝食のお握りと昼食の弁当を持って、車で現場に向かう。

資代(もとよ)夫人が心がけているのが、お腹の調子を整える食事だ。

「10年以上前からわが家では、ご飯といえば黒米と玄米粉が入った玄米ご飯です。玄米は栄養価も高く、食物繊維も豊富ですから」

昼食の弁当には、5種類以上のおかずが入る。3食の中でもこの昼食に重きをおいているからだ。夕食はごく軽めで、ビールの友としてオクラ納豆などの野菜が中心だ。夕食前には腸のスペシャリスト、順天堂大の小林弘幸教授が推奨する“味噌玉スープ”が定番。お腹を整えるのが健康の基本だ。

大学生を対象にした塾で年に4回、左官体験会を実施。これは人間力を養うための塾で、今城さんはこれに協賛。この4月には塾生の中からひとりが『今城左官』に入社した。

コテアートで広く左官の可能性を知らしめたい

今城さん考案のコテアート。モルタル土鉢や土とモルタルを配合して作った花器など作品は多彩だ。手前の花器はモルタルが乾かないうちに落ち葉を貼り付け、剥がして色づけしたセメントで仕上げたもので、今城さん自慢の作だ。

今城さんが手がけた洗面台がきっかけだった。その出来映えを見て、声がかかったのだ。

「建築の一部である洗面台を見た、あるギャラリーから“左官の手法で手水鉢(ちょうずばち)を作ってほしい”という依頼があったのです」
 
10年ほど前のことである。この手水鉢を1作目として、今城さんの唯一無二の技、コテアートが始まった。花器を例にとると、膨らませたゴムマリにモルタルやセメントをコテで塗り重ね、固まったらゴムマリの空気を抜く。これを磨いて仕上げるのが基本的な手法だが、左官業45年、多くは語らぬが、秘めたる技もあるに違いない。

ティーポットの底の丸みに合わせて作られたキャンドルスタンドは、依頼主の要望に応えたもの。紅茶を保温しながら楽しめるように工夫し、優雅な時間を約束してくれる。
電動サンダーでキャンドルスタンドの仕上げをする今城さん。独創的なコテアートや壁や床などのサンプルは、このアトリエから生まれる。左官体験会もここで開催されている。

作品は『TE HANDEL home/gallery』(神奈川県中郡大磯町大磯131-1 電話:0463・26・9755 電話で要予約)に展示。また11月28日~12月3日まで『美庵』(東京都中央区銀座8-7-6-5F 電話:03・3573・8700)で個展を開催予定だ。

コテアートを始めたこの10年、左官業では建築家や設計士からの依頼も多い。長男は一級建築士の資格を取得。父子鷹の活躍に目が離せない。

※この記事は『サライ』本誌2023年6月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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