基本的に、自身の財産を相続するのは、配偶者と子どもになるでしょう。しかし、孫に相続をさせたいと考えている方も、中にはいらっしゃるかと思います。孫に相続させたい場合、法律上どのように定められているのか、孫に相続できる割合はどれくらいなのか、そしてメリットやデメリットについても気になるところです。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、孫に相続させることにより生じるメリットとデメリットをご紹介した上で、生前行っておいた方が良いことをご紹介いたします。
目次
そもそも孫が遺産を相続することができる?
孫に遺産を相続させたい場合はどうしたら良い?
孫が相続できる割合は?
孫が遺産相続するメリット・デメリットは?
トラブルにならないために生前からやっておくことは?
まとめ
そもそも孫が遺産を相続することができる?
民法では亡くなった人(被相続人)の財産を受け継ぐ人(相続人)の優先順位を定めており、遺産をもらう権利のある人を法定相続人といいます。配偶者は常に法定相続人となり、配偶者以外は、被相続人の子どもが優先的に法定相続人となるため、原則的に孫が遺産を相続することはできません。
孫に遺産を相続させたい場合はどうしたら良い?
通常、孫は法定相続人になれないため遺産を相続できませんが、以下の方法であれば孫に遺産を相続させることができます。
1:遺言書を作成して、孫に遺贈すると記載する
遺言書の記載内容は法定相続よりも優先されるので、遺言書によって孫に遺産を受け継がせる意思を示すことで、孫にも遺産を相続させることができます。
2:孫と養子縁組をする
孫と養子縁組をするという方法もあります。孫を養子にすれば、被相続人の子どもとなるため法定相続人として遺産を相続させることが可能です。
3:代襲相続人となる
代襲相続とは、被相続人の子どもに代わり、その子ども(被相続人の孫)が相続人になることです。なお、代襲相続人となるためには、相続人である子どもが相続人よりも、先に亡くなっている等、一定の場合に限定されています。
4:孫を保険金受取人とする生命保険に加入する
死亡保険金に加入し受取人を孫にすることで、遺言書での意思表示や養子縁組のようなことをしなくても、孫に遺産を渡すことができます。
孫が相続できる割合は?
孫が相続する場合、その割合はどうなるのか見ていきましょう。
・遺言書による遺贈の場合
孫は遺言で指定された割合で、遺産を受け取ることが可能です。しかし、兄弟姉妹を除く相続人には「遺留分(最低限相続できる遺産の割合)」があります。そのため、相続人から遺留分の請求があれば、孫はその人に遺留分にあたる額の金銭を支払うことが必要です。
・孫が被相続人の養子となっている場合
この場合、実の子と同じように遺産を相続することが可能です。配偶者と子が相続人になる場合、配偶者が2分の1を相続し、残りの2分の1を、子どもの人数で等しく分けた割合となります。
例えば、被相続人の配偶者、養子となった孫が1人、その他、2人の子どもがいる場合は、配偶者の受け取り分を除いた2分の1を、子ども3人で均等に分けることに。そのため孫は6分の1(1/2 × 1/3 = 1/6)の割合の遺産を受け継ぐことになります。
・相続人となるはずの子がすでに亡くなり、代襲相続により孫が相続人になる場合
孫は亡くなった人の相続分を引き継ぎます。さらに、代襲相続する孫が2人以上いる場合は、亡くなった人の相続分を代襲相続する孫の人数で均等に分割。
例えば、被相続人の配偶者の他、亡くなった子ども1人、その他2人の子どもがおり、亡くなった子どもには、2人の子ども(被相続人の孫)がいる場合、孫は1人あたり12分の1(1/2 × 1/3 × 1/2 = 1/12)の割合の遺産を受け継ぐことになります。
・孫への死亡保険金の場合
保険契約で定められた金額を孫が受け取ることになります。
孫が遺産相続するメリット・デメリットは?
孫が遺産を引き継ぐことのメリットは、節税効果が期待できるということです。
遺産を親から子へ、子から孫へと2回にわたって引き継いだ場合は、それぞれ相続税が課税されますので2回課税されることになります。しかし、孫へ直接遺産を引き継いだ場合は、相続税の課税は1回で済むため、節税となる可能性があるのです。また、孫と養子縁組を行った場合は、相続税の基礎控除が増えるため、一定の節税効果が期待できます。
一方、デメリットは、孫が遺産を引き継ぐ場合、相続税の税額が2割加算される点です。相続税額の2割加算は、以下の方が対象となります。
(1)被相続人の配偶者、父母、子ではない人
(2)被相続人の養子として相続人となった人で、その被相続人の孫でもある人のうち、代襲相続人にはなっていない人
つまり、孫が財産を引き継ぐ場合、代襲相続として遺産を引き継いだときは2割加算の対象となりません。しかし、遺言書や養子縁組により遺産を引き継ぐ場合は、2割加算の対象となります。
また、死亡保険金の場合、非課税枠があり、相続税の負担を軽減することが可能です。しかし、孫への死亡保険金の場合、非課税枠で節税できないというデメリットがあります。
ただし、代襲相続人である孫は、非課税枠が使えるためメリットとなります。
トラブルにならないために生前からやっておくことは?
孫は本来、相続人ではありません。そのため、孫に相続させることで、他の相続人が相続できる財産が減ってしまうことになります。孫を養子にした場合、実子とトラブルになることも考えられるでしょう。生前に相続人である配偶者や子どもに対して、孫に相続させる意思を伝え理解を得ておくことで、トラブルを軽減することができます。
遺言書を作成していれば、記載どおりに遺産分割を行わなければならないため、確実に孫に遺産を相続させることが可能です。その上、遺産分割協議でトラブルが生じる可能性を減らすことができます。
ただし、遺言書は内容が相続人の遺留分を侵害してしまうほどの財産を孫に相続させるといった内容になっている場合は、遺留分をめぐる争いとなり、かえってトラブルの原因になることも考えられます。孫のみ多くの財産を相続することがないよう、それぞれの相続人の立場になって、内容を確認しながら作成すると良いでしょう。
まとめ
孫への愛情のしるしとして、孫に財産を遺したいと思う方は多いかもしれません。また、孫に財産を引き継ぐことで、相続税額を減らすことができる可能性もあります。
ただし、孫は通常相続人ではありません。そのため、孫に財産を遺す方は、他の相続人とトラブルになり、かえって孫の立場を悪くさせる可能性もあります。自身のおかれている環境等に応じて、最適な孫への財産の引継ぎ方法を選択し、親族に対して孫に遺産を相続させたいという旨の意思を伝え、円満に孫へ財産を遺すように努めましょう。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)