個人の所得に対する税金計算において、所得金額の合計額から差し引くことができる金額を所得控除といいます。医療費控除はその所得控除の一つです。所得控除の金額が多ければ、所得が減少することになるため、それだけ税金を少なくすることができます。ただし、所得控除はその種類ごとに計算方法や要件が定められており、医療費控除においても同様です。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、医療費控除申請の期間や、計算方法についてご紹介いたします。

目次
医療費控除とは?
医療費控除は確定申告で申請する
確定申告の医療費控除の申請期間はいつからいつまで?
期限を過ぎてしまった分も控除は受けられる?
医療費控除の計算方法は?
まとめ

医療費控除とは?

医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に、自己または自己と生計を一にする親族のために医療費を支払った場合、その支払った医療費の合計額が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることが可能です。これを医療費控除といいます。

通常医療費は保険適用の場合、総額の3割を支払うこととなっていますが、自由診療の場合や高度医療の場合には非常に高額な医療費を支払わなければならない場合もあります。これに対して、基本的に年間10万円を超える医療費を支払った場合、医療費控除を申請すれば支払うべき所得税額が少なくなり、源泉徴収や予定納税などであらかじめ支払った税金が戻ってくるという仕組みです。

医療費控除は確定申告で申請する

所得控除は基礎控除や社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除など、全部で15種類あります。会社員などの給与所得者の場合、会社が行う年末調整によりほとんどの所得控除を受けることが可能です。しかし、医療費控除については、年末調整では控除を受けることができず、確定申告で申請しなければ適用を受けることができません。

医療費控除が年末調整で適用できない理由は? 

医療費控除は12月31日までに支払った医療費が控除対象です。通常、年末調整はそれ以前に行うという実務的な理由や、医療費控除額を算出するために必要な総所得金額等が確定申告をしなければ算出することができない場合がある等、税務上の理由が考えられます。

確定申告の医療費控除の申請期間はいつからいつまで?

その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が医療費控除の対象です。そのため確定申告の申告期限である翌年の2月16日から3月15日までに申請することにより、医療費控除を受けることができます。 

期限を過ぎてしまった分も控除は受けられる?

確定申告の申告期限後に医療費の領収書が発見された場合でも、医療費控除を受けることができます。医療費控除のみの適用を受ける場合は還付申告を行いますが、この還付申告はさかのぼって申告することが可能なためです。

ただし、いつまでもさかのぼれるわけではなく、さかのぼれる期間は5年間に限られます。5年を過ぎてしまうと還付申告はできないため、医療費控除による還付も受けられなくなります。医療費控除を期限後に申請する場合は、還付申告を早めに行いましょう。

医療費控除の計算方法は?

(1)通常の医療費控除

通常の医療費控除の金額は、支払った医療費から保険金などで補てんされた額と10万円を引いた額となり、上限は200万円です。ただし、総所得金額等が200万円までの方は、10万円の代わりに総所得金額の5%を引いた額になります。

上記を算式にすると次のようになります。

医療費控除額 = 実際に支払った医療費の合計額(保険金などで補填される金額を除く)- 10万円(総所得金額等が200万円までの方は総所得金額等の5%)

保険金などで補てんされる金額は、生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などが該当します。また、保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額からのみ差し引きます。そのため、引ききれない金額が生じても、他の医療費からは差し引く必要はありません。

(2)セルフメディケーション税制

セルフメディケーション税制とは、健康の保持増進および疾病の予防への取組として一定の取組を行っている方が、自己または自己と生計を一にする親族のために年間12,000円以上の特定一般用医薬品等を購入した場合、医療費控除の特例として88,000円を限度として所得控除を受けることができる制度です。

具体的には次の算式により控除額を計算します。

医療費控除額 = 実際に支払った特定一般用医薬品等購入費の合計額(保険金などで補てんされる部分を除きます)- 12,000円

特定一般用医薬品等とは、医師によって処方される医薬品から、ドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)等をいいます。

なお、セルフメディケーション税制の対象となる商品は、領収書等にセルフメディケーション税制の対象商品である旨が表示されています。また、パッケージにセルフメディケーション税制の対象である旨を示す識別マークが掲載している場合もあります。その他にも、厚生労働省ホームページに掲載している対象品目一覧で確認することも可能です。

ただし、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制の併用はできませんので注意してください。両者の試算をしてみて、控除額が大きい方を選択した方が最終的な所得税が少なくなります。

まとめ

病院での治療費や薬代、通院の交通費、ドラッグストアなどで購入する市販薬代などが原則10万円を超えた場合は、通常の医療費控除として所得金額から控除することが可能です。その結果、支払うべき所得税額が少なくなります。

セルフメディケーション税制では、一定の市販薬の年間購入総額が12,000円以上である場合はセルフメディケーション税制として医療費控除の特例を受けることも可能です。しかし、通常の医療費控除とは併用できないので、より多くの金額を控除できるほうを選択すると所得税が少なくなります。

医療費控除は確定申告をしなければ適用できません。そのため確定申告をすることに慣れていない方は、医療費控除を申請されない方も少なくないでしょう。しかし、しっかりと申請して税金の還付等を受けることをおすすめします。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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