多くの方にとって初めてとなる遺産相続の手続きは、ご家族を亡くされた悲しみと混乱の中で、慌ただしく行われることになります。ところが手続きには、期限が設けられているものも少なくありません。中には、期限内に手続きを行わなかったことによって、遺族の方が不利益を受けるものもあります。

そのようなことにならないよう、期限に注意が必要な手続きは、相続によって財産を受け取る可能性のあるすべての人が把握しておく必要があります。

そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続手続きの期限についてお話しします。

目次
期限のある相続の手続き
期限が過ぎるとどうなる?
特に期限がない手続き
期限内に手続きを終えるためには?
まとめ

期限のある相続の手続き

遺産相続に関する手続きや、被相続人の死亡によって受け取れる給付の請求において、期限に注意を必要とする代表的なものはこちらです。

(1)相続放棄
(2)限定承認
(3)準確定申告
(4)遺留分の請求
(5)相続税の申告・納税
(6)相続税の還付請求

(1)相続放棄

相続放棄とは、相続する権利をすべて放棄することをいいます。財産を相続する権利を失う代わりに、債務も相続せずに済むため、自己の財産から被相続人の借金を支払う事態を避けることができます。相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出して行います。

(2)限定承認

限定承認とは、被相続人の財産の範囲内で債務を相続することです。もし、被相続人の財産よりも債務が多い場合、限定承認を行うことによって、遺産を超過した分の債務を弁済する必要はなくなります。ただし、限定承認は相続放棄と違って、相続人1人の独断ではできません。相続人全員で共同して行う必要があります。

限定承認は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に「限定承認の申述書」を、相続人全員で提出して行います。

(3)準確定申告

所得税の確定申告が必要な人が年の途中で亡くなった場合、その年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が代わりに確定申告をしなければなりません。相続人が亡くなった人の代わりに行う所得税の確定申告のことを、準確定申告といいます。準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告と納税を行います。

(4)遺留分の請求

遺留分とは、被相続人の配偶者・子・両親に認められる、最低限の遺産を受け取れる権利のことです。遺言書の内容で遺留分を侵害された場合、各相続人は、遺留分を侵害した遺贈に対して侵害額請求を行うことができます。遺留分侵害額請求を行うことができる権利は、相続の開始があったことや、侵害の対象となる遺贈や贈与があったことを知った日から1年間で消滅。または相続開始のときから10年を経過すると、時効消滅します。

(5)相続税の申告・納税

相続税の申告とは、各相続人が相続や遺贈などによって取得した財産に基づき、計算した相続税の額を税務署に申告する手続きです。相続税の申告は、被相続人の住所地を管轄する税務署に、相続税の申告書と必要書類を提出して行います。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行います。

もし、申告期限内に遺産分割協議がまとまらなかったとしても、未分割の財産を法定相続分で分けたと仮定して、相続税の申告を行わなければなりません。

(6)相続税の還付請求

相続税の還付請求ができるのは、相続税を本来の納付税額より多く申告してしまった場合です。請求期限は原則、法定申告期限から5年以内となります。当然、期限を過ぎてしまうとその権利を失ってしまいます。したがって相続税の場合は、相続が発生したときから5年10か月後ということになります。ただし、後発的な理由によって、更正の請求が必要になった場合は、その事実が生じた日の翌日から2か月、または4か月以内の請求が必要です。

期限が過ぎるとどうなる?

相続放棄や限定承認は、期限を過ぎると相続人が全ての資産と負債を相続することになります。多額の借金があっても、それを引き受けなければいけません。遺留分の請求の期限を過ぎてしまうと、自分に不利な遺言書の内容を受け入れることになります。

また、準確定申告と相続申告に関しては、無申告加算税や延滞税といった追加のペナルティが発生してしまいます。ですから、相続に関する期限のある手続きは必ず期限内に手続きを済ませなければいけません。

特に期限がない手続き

下記手続きについては、特に期限の定めはありませんが、相続手続き上重要なものです。

預金の名義変更

名義人が死亡した際、死亡の届出があった時点で、ひとまず預金口座は凍結処理が行われます。その上で、相続手続きの申請があれば解約処理が開始され、口座残高は相続人名義の口座へと払い戻されます。こちらの手続きも特に期限はありませんが、相続税の納税資金に使用することもあるので、速やかに手続きを済ませたほうがよいでしょう。

不動産相続登記

土地や建物といった不動産には必ず「不動産登記簿」が存在します。所有者の方が亡くなってしまい、その方の持分が相続人へ移ったことを証するために名義を書き換えます。それを「相続登記」といいます。今まで相続登記に期限はありませんでした。

しかし、相続登記の義務化が2021年2月10日の法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において決定され、政府は2024年までに施行する方針を示しています。そのことから、今後手続きが必要になるでしょう。

期限内に手続きを終えるためには?

相続が発生してから手続きのことを考えるのは、できれば避けたいところです。エンディングノートの活用や、専門家を通じて相続シミュレーションをしてもらうことで、相続が発生してから何が発生するのか、予見することが出来るかと思います。相続後に慌ただしく手続きをしないためにも、生前にしっかりと対策をすることをお勧めします。

まとめ

今回ご紹介した手続きは、いずれも相続手続きの中で重要なものばかりで、失念することで大きな損失が発生する可能性もあります。相続はご自身だけの問題ではなく、残された家族全体に影響するもの。ですから、相続が発生したら何をしなければいけないのか、必要となる手続きを共有したほうがよいでしょう。今何をすべきかわからない方や、確実に手続きを行いたい方は、ぜひ相続の専門家の力を借りていただきたいと思います。

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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