文/鈴木拓也
「筋膜リリース」に代表されるように、筋膜にアプローチするセルフケアが盛んだ。
筋膜とは、皮下脂肪と筋肉の間にある、膜構造の薄い組織の総称。筋肉をスムースに動かすと同時に、臓器を支えてその位置を保つ役割もある。
筋膜の状態が正常であれば、体の動きに従っていろいろな方向に動く。ところが、座りっぱなしや猫背といった悪姿勢をとると、この筋膜の動きが悪くなる。「体がガチガチに硬い」というのは、多くの場合、この筋膜の動き(滑走性)が悪くなっているため。
肩こり・腰痛をもたらすこともある、筋膜の問題を効果的に解消するメソッドが、「筋膜ゆらし」だ。
考案したのは、桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部の成田崇矢教授。オリンピックの飛込競技日本代表トレーナーとしても知られる成田教授は、著書『秒速で体が柔らかくなる 5秒筋膜ゆらし』(冬樹舎)で、この方法を記している。
ごく短時間で筋膜の状態を良くし、不調を整えてくれると評判のこの方法。今回は、その一端を紹介しよう。
違和感のあるところをつまんでゆらす
メインとなるのが、体を柔軟に保つためのエクササイズ。これには、体を前に曲げる前屈と、後ろに体を反らせる後屈の2種類がある。どちらも、「筋膜のすべりをよくする(筋膜ゆらし)」「筋膜をストレッチで刺激する」「筋肉をストレッチする」の3ステップからなる。
ここでは、前屈のステップ1を掲載する。
1 .前屈する。上体を曲げて、硬い、伸びる感じがする、張っている、邪魔しているものがあると感じるところが脂肪と筋肉の間のすべりが悪くなっている部位。
2 .硬い、伸びるなどと感じる部位を数秒つまんでゆらゆらとゆらす。少し痛いと感じるくらいの強さでつまんで振る。
3 .もう一度前屈してみると、硬さを感じる部位が変わっていることに気づく。これは、筋膜に動きが出てきて、動いていない箇所が変わり、硬さを感じる部位も変わっていくため。
2~3を数回繰り返す。
やってみる前に、現状でどこまで前屈できるかを確認し、筋膜ゆらしをやった後で、再度前屈してみよう。以前よりも深く前屈できることに驚くはずだ。
四十肩や五十肩にも効く
次は、多くの人が悩んでいる、肩こりに特化したセルフケア。 30秒から1分間行うと肩がラクになる。
1.首から肩全体をつまんでみて、痛みを感じる所を探る。痛む箇所を数秒つまみ、その後ゆらゆらと振る。つまみ方にコツはなく、つまめればOK。
2.痛む箇所、違和感を感じる箇所をみつけて、つまんでゆらす――これを繰り返していく。
このつまんでゆらすケアは、四十肩や五十肩の「初期の炎症が収まり、強い痛みが引いた後に残っている慢性的な痛み」に対しても応用できる。この場合、腕を上げたり、首を動かしてみて、違和感などがある部分をつまんで動かす。これだけで痛みが和らぐそうだ。
積極的に歩いて滑走性を保つ
本書には、日頃から筋膜の滑走性を保つ習慣についてもアドバイスがある。
その1つに、「5分間でも同じような動きを繰り返す運動」が挙げられている。ただ歩くだけでも、この運動に該当するので、普段はエレベーターや車を使う場合、階段を上り下りする、目的地から離れた場所に駐車するなど、歩行時間を延ばしてみよう。このほか、長時間同じ姿勢をとらない、猫背など悪い姿勢は避けるというものがある。いずれも特別なスキルを要さず、心がけ次第でできるものばかり。「筋膜ゆらし」に加え、意識してこうした習慣も取り入れるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『秒速で体が柔らかくなる 5秒筋膜ゆらし』
本書内の写真:豊島正直
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。