I: 源実朝(演・柿澤勇人)の右大臣任官を祝う拝賀の式が鶴岡八幡宮で執り行なわれました。『吾妻鏡』によると式は酉の刻、午後6時くらいから始まったようです。鶴岡八幡宮は源氏の氏神ですし、鎌倉の守護神でもあります。八幡菩薩に右大臣就任の挨拶をするのは重要な祭儀だったと思います。
A:劇中では、そこまで描き切れていませんが、警備の兵が「一千騎」というほどたくさんいたようですし、多くの御家人も参列していました。『吾妻鏡』にはその名前が記録されていますが、武田信玄の祖先の武田信光、伊達政宗を輩出する伊達家の為家なども参列していて、「歴史って深いなぁ」と感慨深いですよね。
I:『吾妻鏡』といえば、こんなことも書かれています。拝賀式の2日前に、式に参列する予定のあった源氏一門の源頼茂が鶴岡八幡宮拝殿でお経をあげている時、なぜか眠ってしまい夢を見たそうです。鳩が1羽飛んできたかと思うと、子供が現れて鳩を叩き殺した、という夢でした。夢から覚めると、実際に八幡宮の庭に鳩が死んでいたのだというのです。不吉なことが起こったということですね。なんだか怪しいですが。
A:劇中では歩き巫女のおばば(演・大竹しのぶ)が、実朝に対して〈天命に逆らうな〉と声をかけます。その流れで、御家人たちが待機している回廊に三浦義村(演・山本耕史)が現れ、その義村の肩を北条義時(演・小栗旬)が叩きます。びっくりした義村の顔が印象的でしたが、大河ドラマのオールドファンには、1979年の『草燃える』で藤岡弘(現藤岡弘、)演じる三浦義村の背後に松平健演じる北条義時が現れる場面を思い出してしまう感慨深いシーンだったのではないでしょうか。
I:Aさんのようなオールドファンが喜ぶシーンをぬかりなく挿入してくるとは感激ですね。
大河史に刻まれた「実朝と公暁」「柿澤勇人と寛一郎」
I:そして、義時が太刀持ちの役を源仲章(演・生田斗真)と変わった話が挿入され、公暁が仲章を義時と誤認して殺害。さらに実朝と対峙します。柿澤勇人さん、寛一郎さん渾身の演技にしびれて、私はこのシーン、涙が止まりませんでしたよ……。44話と45話の間に開催されたトークイベントで、制作統括の清水拓哉さんが「今後50年間、実朝、公暁といえば、このふたりという時代が続く」というようなことをおっしゃっていましたが、本当にその通り! と感じました。まさに大河史に残る場面でしたね。
A:いや、ほんとうにそうですね。ドラマの後半になって登場した場合、視聴者もなかなか馴染むのがたいへんだったりするのですが、実朝、公暁ともに、その存在にグイっと惹きこまれる不思議な魅力がありました。これについては、前述のトークイベントでその秘密の一端が明かされていますので、別稿で詳しく取り上げたいと思います(https://serai.jp/hobby/1100887)。
I:ふたりともこのドラマにかける意気込みが半端ないというのが伝わってくるトークイベントでしたね。
A:ところで、劇中で公暁が〈阿闍梨公暁、親の仇を討ったぞ〉と雄叫びをあげたシーンを見て感じたことがあります。以前から不思議に思っていたことなんですが、ほんとうに公暁が実朝殺害の実行犯だったのだろうか? という疑問です。ほんとうに次期将軍を目指していたのなら、自ら実朝に手を下すだろうかと。
I:確かに、前週に「主殺しは最も重い罪」という源仲章の台詞もありましたし、京で修行した公暁ならば、「重い罪」であることは把握していたはずです。もしかしたら、実行犯が公暁の名を騙って仲章と実朝を殺害し、雄叫びをあげたのではないのかと疑っているのですよね?
A:以前、鶴岡八幡宮の教学研究所の加藤健司所長(現在は帝京大学講師)に聞いた話ですが、当時の八幡宮には、頼朝に滅ぼされた平家の子弟が供僧として、多数存在していたそうです。実朝が亡くなった後に、幕府の取り調べを受けた者もいますし、公暁に協力していた供僧もいたようです。前週に北条朝時(演・西本たける)が、「行列のことを鶴岡八幡宮の僧が聞きに来た」という場面もあったので、「ああ、それは平家ゆかりの供僧だったかもしれないな」なんてことを思いながら見ていました。だから、そうした平家ゆかりの供僧にそそのかされたり、もしかしたら実行犯はそうした供僧だったのではないかと、ちらっと思ったわけです。
I:公暁と対峙した際の、達観したかのような実朝の表情がちょっとこびりついて、離れません。いつの間にか「柿澤実朝」に感情移入してしまったようです。
【政子の思い、実衣の思い、そして首無き亡骸の手を握る千世の思い。次ページに続きます】