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声に出しては言わないけれど、「大好きで大好きでたまらないもの」「どうしても止められないもの」がある人は意外といるのではないでしょうか。人であったりモノであったり、何かに対して強い愛情や執着心を持ち、そこにどっぷりと浸る日々を送ることは、幸せであると同時に、苦しみが伴うことがあります。
そんな「沼」にはまっている人々をリアルに描く、沢木文さんの著書『沼にはまる人々』から、「宝塚歌劇団」の沼についてご紹介します。

文/沢木文

「理想の男性の姿」がそこにある

大正3(1914)年初公演の宝塚歌劇団。この沼にはまる人も多い。

明子さん(50歳)は宝塚にはまって30年。夫(50歳)や娘(30歳)も沼に引きずり込んだ。
「私が好きになった頃は、チケットも取りやすかったんです。宝塚のいいところは、チケットの安さ。あれだけの群衆ミュージカルで、音楽は生オーケストラなのに、7000円くらいですからね。本格的なミュージカルなら数万円する内容を手軽に楽しめるのです」

宝塚歌劇は未婚の女性だけで構成されている。一般的には、特殊なメイク、大階段、ベルサイユのばら、ラインダンス、華麗な芸名などのイメージがある。「花組、月組、雪組、星組、宙組という組があり、『清く正しく美しく』というメッセージが根底に流れるわかりやすく美しいストーリー。男役はすべて女性なのに、男の色気が香り立っている。理想の男性の姿をそこに見ました」

ファンも「清く、正しく、美しく」

育成ゲームのような要素もあるという。舞台に出る人は、宝塚音楽学校の予科・本科(各1年・計2年)を終えて、舞台に立つ。舞台に立つ人のことを、タカラジェンヌと呼ぶが、同時に「研究科〇年の生徒さん」と呼ぶという。

「最初は目立たなかったのに、どんどん上手になっていって、ほかを圧倒するようになるんです。独身時代、給料のすべてを宝塚に注いでいた頃は、ムラ(宝塚市のこと)にも通っていました。学校の文化祭を見て、『この下級生(在学生)さんはスターになる』という原石を探して応援するのです」

観劇者の目も養われている。光るものを見つけた子はスターになっていく。スターであっても学ぶ気持ちを忘れず、謙虚な姿勢を持ち続ける。そこに日本人の美学を見るという。

「宝塚を好きになると、品行方正になります。美しい世界に触れて、自分も磨かれていくようにも感じる。自己研鑽にもつながることが、宝塚沼のいいところです。
ファンの私生活も宝塚歌劇団と同じように、清く、正しく、美しくなりますしね。あと、おしゃれになります。やはりファンとして恥ずかしくないように、観劇時のファッションを上品にまとめます。私も皇室愛用ブランドや着物など、季節に合わせて観劇用の服を持っています」
それらの衣類は購入にも維持にも費用がかかるが、推しを輝かせるためならば、金に糸目はつけないという。

ファンクラブ会員だけの特別ルール

そして、ファンはほかにも行うことがある。それは、公式ファンクラブ『宝塚友の会』への入会。そして、個別のタカラジェンヌの私設ファンクラブ“会”への入会だ。ただし、複数の“会”に入ってはならないのだという。

「個人を推すには、“会”に入って応援します。これにより、直接手紙を渡せたり、お茶会というファンミーティングに出席できます。“会”に入っているからこそ、出待ちと入り待ちができるんです。そのときは、指定ジャンパーやショールを身に着けて待ちます。このとき私語もスマホ操作も厳禁です」

タカラジェンヌによって、待機の区画が違うなど、いろんなルールがあるという。これらを仕切るのが、「代表さん」と呼ばれるファンクラブの代表だ。噂によると、私財をなげうって宝塚の活動に充てたり、親の代から務めている人もいるという。

「カメラを向けたり、歓声を上げるのは、会に入っていない人ばかりです。今のファンは、自由に行動したいらしく、会に入らずに応援する人も多いです。でも、みんなで応援するというのも宝塚沼の醍醐味なのにね」

タカラジェンヌは、退団までの年数が3〜9年と短い。続々とスターは誕生し、魅力的な演目も続々と登場する。いつ行っても新鮮だからこそ、果てしない沼が広がっているのだ。

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沢木文(さわき・あや)
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。ブランドと外見が至上とされる価値観に疑問を持ち、「幸福、自由、欲、富、快楽のゴールはどこにあるのか」をテーマに取材活動を行う。担当する特集で、お金、恋愛、結婚、出産、教育などを深堀りし続けている。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 Webサイト『FRaU』(講談社)、『Domani』(小学館)、教育情報メディア『みんなの教育技術』(小学館)などがある。『東洋経済オンライン』(東洋経済新報社)、『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。


 

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